2011 Fiscal Year Annual Research Report
分子動力学法において一次相転移を研究するための新規手法の開発
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11J02003
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
金子 敏宏 慶應義塾大学, 大学院・理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 分子動力学法 / 拡張アンサンブル法 / 一次相転移 / 分子クラスター / ナノスケール細孔 / 単純液体 / 固液平衡条件 / 自由エネルギー |
Research Abstract |
高活性炭素繊維やゼオライトなどはナノスケールの細孔を持ち,分子を閉じ込める性質を利用して吸着材や結晶作成のための鋳型としての応用が期待されている.そのためにはナノスケールに閉じ込められた分子のふるまい,特に相転移現象を明らかにする必要がある.このような系は実験で扱うには小さすぎる一方で,相転移現象を完全にシミュレーションできる計算手法はない.そこで,近年注目されている拡張アンサンブル法を改良することで,ナノ空間に特有な相転移現象をミクロな視点から説明するための計算手法を開発することを本研究の目的とする. まず,ナノ空間における相転移を代表する系である水クラスターに着目し,拡張アンサンブル法を用いたシミュレーション研究を行なった.そして,水クラスターの相転移の種類がクラスターのサイズに依存するという新しい物理現象を発見し,国際会議The 5th International Mini-Symposium on Liquidsで報告し,Journal of Chemical Theory and Computationに発表した. つぎに,拡張アンサンブル法のひとつであるマルチバーリック・マルチサーマルアンサンブルをバルクの単純液体に適用し,他の手法よりも計算の効率が良いことを確認できたため,Journal of the Physical Society of Japanに発表した。 さらに,2011年8月にはネブラスカ大学リンカーン校を訪問しZeng教授とのディスカッションの末,拡張アンサンブル法において改良すべき点が圧力制御の部分にあることを突き止めた.現在は統計力学理論との整合性を確かめながら圧力制御法の改良に取り組んでいる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
マルチバーリック・マルチサーマルアンサンブルの実装とデバッグが完了したこと,改良すべき点が圧力制御の部分にあることを突き止めたこと,ネブラスカ大学とコロラド鉱山大学を訪問して拡張アンサンブル法の適用先に関する有意義な議論ができたことの3点において,当初の計画以上に研究が進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
まずは,来年度前半で拡張アンサンブル法の改良を一段落させる.つぎに,バルク単純液体のように実験・シミュレーションでの豊富なデータがある系に対してこの新規手法を適用し,精度の検証を行う.さらに,水分子に注目し,ナノスケールの細孔内での相転移現象を新規手法により研究する.具体的には温度・圧力・細孔形状をパラメーターとして,ナノスケールの細孔内の水分子の物理的性質を説明するデータベースを作成する.最終的にはナノスケールの細孔をもつ物質の工学的利用に関して新しい提言をすることを目標にしている.
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