Research Abstract |
窒素内包フラーレン(N@C_<60>)は窒素プラズマをフラーレンC_<60>に照射することで合成されるが,これまでに報告されている方式による合成純度(C_<60>に対するN@C_<60>の存在割合)は極めて低く(10^<-3>-10^<-2>%),高純度合成法の確立が望まれている.初年度は,N@C_<60>の高効率合成を目的として,プラズマ中の窒素分子イオンの密度やエネルギーを自在に制御できる装置を作製して,N@C_<60>の合成に対する最適条件を明らかにした.さらに,合成されたN@C_<60>を量子ビット材料として利用することを目的としてカーボンナノチューブ内部空間にN@C_<60>を挿入するため,合成されたN@C_<60>をイオン化する必要があるが,その時の熱や紫外線に対する安定性についても調べた。 1.エネルギー制御型電子ビーム発生装置開発と高純度のN@C_<60>合成 高周波放電により生成したプラズマ中に挿入したグリッドと基板の電位,フラーレンオーブン温度,及び窒素ガス圧を変化させることで,窒素ガスを解離・電離する電子のエネルギーを制御し,窒素分子イオンを多量に生成するプラズマ源を開発した.グリッド電位が負方向に大きくなるほど合成純度が向上することが分かった.これはグリッド電位が負方向に大きくなると電子の加速エネルギーが増加して,窒素分子のイオン化率を向上させることで,窒素分子イオン密度が増大したためである。一方,プラズマ空間電位は約-10Vで一定であり、基板電位の変化で窒素分子イオンの加速エネルギーを調節することができ,N@C6。合成に最適な照射エネルギーが40~80eVであることを明らかにした。さらに,フラーレンオーブン温度が増加するに従って,合成純度も向上することが分かった。これはフラーレンオーブン温度が増加することによってフラーレンが分散して昇華することで窒素分子イオンとの反応確率が増加するためである。その結果,0.56%という世界最高の純度でN@C_<60>を合成できた。 2.紫外線照射にともなうN@C_<60>安定性確認 高速液体クロマトグラフィを利用してN@C_<60>を紫外・可視吸収分光装置で測定した結果、純度が高まるに従って,空のフラーレンとは異なる二つの新たなピークが観測され,さらに短波長の紫外線照射により二つのピークが減少することが分かった。このとき,電子スピン共鳴装置により,紫外線照射によってN@C_<60>が破壊されることが明らかになっており,この新たな二つのピークはN@C_<60>に関係した信号であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までの成果により,多量のN@C_<60>が合成されているので,それらをカーボンナノチューブ内に規則的に挿入することで「N@C_<60>周期構造結晶」を形成するための装置開発を行う. 液体噴霧プラズマトーチによるN@C_<60>イオンプラズマ生成とカーボンナノチューブへの照射 液体の導入が可能である"大気圧プラズマトーチ装置"を作製し,さらにパルス的にプラズマを生成することで実現できる低温領域で,N@C_<60>を溶解させたトルエン等の液体を噴霧する.その結果,トルエンが直ちに蒸発し,残ったN@C_<60>が破壊されることなくイオン化し,負バイアスが印加された基板上に塗布したカーボンナノチューブにエネルギー制御されて照射されることで,N@C_<60>を内包したカーボンナノチューブを形成する. このようにして形成されたN@C_<60>周期構造結晶の光学的,電気的特性を,吸収・発光分光,電子スピン共鳴等により詳細に調べ,量子効果デバイスとして機能することを実証する.
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