2011 Fiscal Year Annual Research Report
核媒質中における中間子の性質及び重い中間子―原子核束縛系の生成反応の研究
Project/Area Number |
11J02274
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
池野 なつ美 奈良女子大学, 大学院・人間文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 中間子原子 / 中間子原子核 / π中間子 / 理化学研究所RIBF / 生成反応 |
Research Abstract |
中間子-原子核束縛系(中間子原子及び中間子原子核)の研究から強い相互作用の様相、すなわち有限密度における量子色力学(QCD)の対称性の振る舞いや、種々のハドロン構造に関する理解を深め、更に重い中間子を含んだハドロン多体系へと研究を発展させる事を目的としている。本年度は、1.π中間子原子に関する研究と、2.重い中間子-原子核束縛系の生成反応に関する研究を行った。 1.に関しては、理化学研究所RIBFでのπ中間子原子高精度分光実験によって得られるπ中間子原子生成スペクトラムの計算を行った。その結果、高精度分光実験では、複数のπ中間子状態を同時に観測できることがわかった。更に、これらのπ中間子状態から、QCDの対称性と密接に関係するπ中間子-原子核相互作用や波動関数の繰り込み因子を詳細に決定する可能性を検討した。また、有限角度での(d,^3He)反応におけるπ中間子原子生成の理論的な研究も発展させた。生成スペクトラムは強い角度依存性を持ち、異なる角度において異なる量子数を持つπ中間状態が大きく生成されることがわかった。従って、現在までに研究が行われてきた前方反応に加えて有限角度も考慮することで、π中間子原子の系統的な研究が可能となり、QCDの対称性に関する研究もより系統的に行うことができる。 2.に関しては、核子より重い中間子と原子核の束縛系を生成する反応として、(γ,d)反応や(p,^3He)反応等の2核子移行反応を理論的に研究した。中間子束縛系生成において反応の運動量移行は重要な量の1つであり、この反応では重い中間子を運動量移行0(無反跳)で生成することができる。標的核としてクラスター構造をもつ^6Liが適しており、将来重い中間子原子核を生成する実験方法として有用であることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
π中間子原子の研究では、現実的な実験を視野に入れ、QCDの対称性と密接に関係する物理量の観測可能性を検討できた。また、重い中間子原子核の生成反応として、2核子移行反応の有用性を示せた。これらの内容を3編の論文にまとめて、成果を公表することができたためである。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に行った同様の考察を、様々な核種のπ中間子原子に関して系統的に行う。例えば、中性子数が奇数の原子核や、中性子過剰核や陽子過剰核等の不安定核を標的核として用いる。また、生成反応に関しても前方及び有限角度の反応を考慮する。更に、異なる核密度におけるπ中間子の性質やQCDの対称性に関する情報を定量的に観測できるかについて検討する。 重い中間子と原子核の束縛系生成に関しては、より適した生成反応や標的核を理論的に研究する。その結果を実験研究者との議論を通じて、生成反応等の現実性についても検討する。また、有限密度における重い中間子の性質から得られるQCDの対称性の様相に関しても理論的に研究をすすめる。
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