2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11J02539
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
古川 史也 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | カリウムイオン / 塩類細胞 / 魚 / 鰓 / 浸透圧調節 / モザンビークティラピア / ROMK |
Research Abstract |
魚類の鰓におけるK^+排出機構の解明 K^+は脊椎動物の体内に最も多く存在する一価の陽イオンであり、また成長や神経・筋肉の活動など、多くの生命現象に密接に関与することが知られている。その大部分は細胞内に高濃度に蓄積されており、血漿での濃度は常に約4mMに保たれている。海水中には比較的高濃度にK^+が存在し、体内にK^+が過剰になる傾向にあるため、海産魚は積極的にK^+を排出する必要がある。私は主要な浸透圧調節器官である鰓に着目し、海水馴致ティラピアを用いて実験を行った。K^+と不溶性の沈殿を形成するテトラフェニルほう酸という化合物の性質を応用し、鰓から排出されたK^+を沈殿・可視化する新たな手法を開発した。この実験により、世界で初めて、鰓の塩類細胞がK^+を排出する事を証明した。さらに、陸上生物の腎臓等でK^+の輸送を行うことが知られるK^+輸送体renal outer medullary K^+ channel (ROMK)、K^+ large conductance Ca^<2+>-activated channel (Maxi-K)、K^+/Cl^- cotransporter (KCC)1、KCC2、KCC4をティラピアにおいて同定し、淡水、海水、高K^+人工海水に馴致したティラピアの鰓における各遺伝子発現量を定量した。その結果、ROMKのみが環境K^+濃度依存的に顕著な発現上昇を示した。このROMKの特異抗体を作成し、免疫染色に供した結果、ROMKは塩類細胞の体外に面した頂端膜に存在し、更に高K^+環境に馴致したティラピアでは高密度に存在することが判明した。また阻害剤を用いた実験により、ROMKがティラピアの鰓において主要なK^+排出経路であることを証明した。これらの実験により、魚類の鰓におけるK^+排出機構の存在と、その分子メカニズムが初めて明らかとなった。 K^+と同様の排出経路におけるCs^+排出の検討 昨今、日本では放射性物質による汚染への懸念が広がっており、その生物圏への影響を調べることは重要である。この現実を踏まえ、申請者は生物の体内で同族のK^+と類似した挙動を示すことが知られるCs^+の研究を始めた。海水馴致ティラピアの入鰓動脈にCs^+または同族のRb+を含んだ平衡塩類溶液を注入し、K^+と同様の検出手法に供した。その結果、鰓の塩類細胞の開口部に排出されたCs^+およびRb^+が検出された。この結果は、K^+と同様に、魚類が放射性Cs^+を積極的に排出する可能性を示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
カリウムイオンの吸収機構については、予想外の結果が現れ、かつ技術的に困難な点が多かったため、現在は一度そのテーマに関しての研究を停止せざるをえない状況である。しかし、これまでに知られていなかった鯉におけるカリウムイオンの排出機構を分子メカニズムから明らかにできたことの成果は大きいと考えている。また、現在問題となっているセシウムの挙動を明らかにする上で重要な知見も得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
前述のように、カリウムイオンの吸収機構を調べる予定であったが、これは技術的難点が多いため現在は行う予定はたっていない。代替案として、カリウムイオンの排出活性を調節する内分泌因子の探索を現在進めており、ある程度の予備的データが得られている。また、カリウムの排出機構が放射性セシウムの排出に実際に関与すること、及び淡水産(又は淡水馴致)魚におけるカリウム/セシウムの排出メカニズムを明らかにし、水産業や漁業関係者が苦心している放射性セシウムの対策を考える上での知見を提供したい。
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