2011 Fiscal Year Annual Research Report
ダイナミックな構造変化を利用した高精度低分子プローブの精密設計と開発
Project/Area Number |
11J02579
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
永本 祐樹 京都大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | DNAアルキル化剤 / 酸性pH依存 / 環縮小転位反応 / プロドラッグ / 小員環 |
Research Abstract |
私は以前開発した環縮小転位反応を利用した低分子プローブの開発を目指して研究を進めた。当初の計画ではペプチドをターゲットとしていたが、種々の検討の結果、本年度はDNAにターゲットを変更し、pH依存型新規アルキル化剤の創製に成功したので以下報告する。 DNAアルキル化剤は癌化学療法において最も有効な治療薬の一つであるが、正常細胞とがん細胞との細胞選択性の低さに由来する重篤な副作用がしばしば問題となる。この副作用軽減に有効な手段の一つとして、プロドラッグ化、すなわち、腫瘍細胞に特徴的な酵素や微小環境によって代謝活性化するような分子設計が挙げられる。私は以前、縮環シクロブタノールから環縮小転位を経由して多置換スピロ三員環が得られることを報告した。スピロ三員環構造はアルキル化能を有する抗腫瘍活性天然物であるilludine類に含まれる骨格であり、本天然物の活性中心であることが知られている。私は腫瘍細胞が正常細胞に比べて低pH環境にある点に着目した。そして、縮環シクロブタノールを活性前駆体とし、本反応を代謝活性化に利用した酸性pH依存型新規アルキル化剤を考案した。 私は以前の研究で用いた基質をもとに種々の誘導体を合成して含水酸性条件でその反応性を調べた。その結果、室温でも反応が速やかに進行する化合物を見出した。また本化合物は酸性pHでは高い反応性を示す一方、中性・塩基性pHでは反応がほとんど進行しなかった。さらにDNA切断活性を評価する生化学アッセイを行った結果、本化合物がDNA切断活性を有するだけでなく、酸性pHでは強いDNA切断活性を示す一方、中性・塩基性pHでは活性をほとんど示さないことがわかった。 本成果の意義・重要性を以下に示す。 ・環縮小転位反応を利用した新たなプロドラッグ化の方法論を提案した ・細胞内環境の違いをうまく利用した巧妙な分子設計を行った ・創薬研究における精密有機合成の力量を示した
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該研究は当初の計画ではペプチドをターゲットに設定していたが、種々の検討の結果、ターゲットの変更を余儀なくされた。しかしもう一つの候補であったDNAにターゲットを変更して粘り強く研究を進めた結果、当初の目的に合致するpH依存型新規DNAアルキル化剤の創製に成功した。現在論文としてまとめて提出したところである。本研究成果は第31回有機合成若手セミナーにおいてポスター賞に選ばれるなど他の研究者からも高い評価を得ている。 以上のように当該研究は当初の計画どおり順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究結果から、私が開発した環縮小転位反応が当初の計画のとおりに低分子プローブに応用できることが証明された。また本年度の種々の検討により本反応の低分子プローブへの展開における様々な知見が得られたので、次年度は得られた知見を生かして本来の目的であるペプチドをターゲットとしたプローブ設計に取り組んでいく予定である。さらに本年度の研究の過程で当初の計画の一つである蛍光出力を制御できる可視化プローブの設計に関する知見もいくつか得られたので、こちらに関しても同時に遂行していく予定である。
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Research Products
(6 results)