2012 Fiscal Year Annual Research Report
サイコパシーによって失われる道徳観の脳神経メカニズムとその価値の解明
Project/Area Number |
11J02616
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大隅 尚広 慶應義塾大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 道徳 / 感情 / サイコパシー / 利己主義 / 共感性 / 意思決定 / 事象関連電位 / 脳波 |
Research Abstract |
サイコパシーというパーソナリティ特性については,ヒトの道徳性の基盤となる脳神経メカニズムにおける機能低下が推測される。本研究では他者感情への共感という視点から道徳性に関する脳神経メカニズムについてサイコパシーによる個人差を検討することとした。実験では,被験者が他者の今後の処遇を決め,その決定に応じて他者の悲しみ表情の顔もしくは笑顔が提示されるという課題を用い,自らの意思決定による他者の顔表情の変化に対する情報処理に関して,時間分解能に優れた事象関連脳電位を検討した。 その結果,サイコパシー傾向が高いほど他者を悲しませる選択が多いことが示され,そのような選択の結果として提示された顔表情に関しては,サイコパシー傾向高群では,笑顔にさせたときよりも悲しい表情にさせたときに右側頭後部における潜時250ミリ秒前後のearly posterior negativity(EPN)と呼ばれる事象関連電位成分が小さいことが明らかになった。一方,サイコパシー傾向低群ではこのような差は見られなかった。EPNは情動刺激に対する注意と知覚的処理を反映し,比較的早い段階における情動刺激の影響と関係していると考えられている。したがって,サイコパシーにおいては他者からの否定的な信号に対する初期注意過程に機能低下があることが示唆された。そして,その機能低下は表情の変化が自己の行動と関連する場合のみに生じることから,この情報処理成分が罪悪感などの自己意識的感情と関連すると考えられる。総じて,サイコパシーにおいては罪悪感のような自己の行為の結果に関する感情的評価が行われないということが示唆され,このような情報処理の機能低下により,自己の行動の修正が適切に行われず,他者を悲しませる非道徳的行動を助長することに繋がると予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験参加者の確保が期待通りにならず,脳損傷患者との直接的な比較が行えなかったが,計画としては想定の範囲であり,前年度の成果をベースとしてサイコパシーによる道徳性の低下とその神経基盤に関する仮説に大きな修正はなかった。また,新たな実験では,その仮説を支持する発展的な成果を上げることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
サイコパシーによる道徳性の低下に関する神経科学的仮説を検討するため,脳損傷患者との比較を行う予定である。 それと同時に,患者の実験参加者の確保が期待通りとならないことも想定し,その他の神経科学的手法を用いた実験デザインを考案し,道徳性の低下に関する神経基盤を解明するという研究の大きな目的を果たせるように取り組んでいくこととする。
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Research Products
(4 results)
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[Journal Article] Amygdala dysfunction attenuates frustration-induced aggression in psychopathic individuals in a non-criminal population.2012
Author(s)
Osumi, T., Nakao, T., Kasuya, YShinoda, J., Yamada, J., & Ohira, H.
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Journal Title
Journal of Affective Disorders
Volume: 142
Pages: 331-338
DOI
Peer Reviewed
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