2011 Fiscal Year Annual Research Report
代謝生化学とオミックスの融合による絶対独立栄養性水素細菌のグリシン代謝系の解明
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11J03030
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
千葉 洋子 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 独立栄養性細菌 / アミノ酸生合成 / 分子生物学 / 代謝生化学 / X線結晶構造解析 |
Research Abstract |
本研究の目的は、絶対独立栄養性好熱性水素細菌Hydrogenobacter thermophilusのグリシン代謝系を明らかにすることで、新規な代謝経路・酵素を発見することである。本年度は、申請者が発見した新規ホスホセリンホスファターゼ(PSP)の性状解析を下記の様に行った。なお、PSPは本菌においてセリンの前駆体のひとつであるセリンを生合成する酵素である。 新規PSPは既知のPSPと進化的に全く独立しており、アミノ酸配列に類似性がない。しかし、新規PSPの生化学的性状解析を行ったところ、基質親和性や反応速度は既知のPSPと同等であることが明らかになった。したがって新規PSPも細胞内でセリン生合成酵素として十分に機能できると考えられる。このことから、本菌のグリシンの大半は、本新規PSPによって糖新生系由来のホスホセリンから作られたセリン由来であることが強く示唆された。 本菌のセリン、それに続くグリシンの生合成経路は、既知のPSP遺伝子が欠損しているために不明であった。新規PSPの発見および性状解析は、本菌の中心的代謝系であるアミノ酸合成経路をつなぐ上で極めて重要である。 次に本新規PSPの構造的基盤を明らかにするため、X線結晶構造解析を行った。結果、基質を含まないタンパク質と、活性中心に基質を結合させたタンパク質の2種類の構造を高い分解能で得ることに成功した。これにより、基質を認識するのに重要なアミノ酸残基を特定することが可能になった。 新規PSPの類似遺伝子は幅広い生物に存在しており、それらもPSPとして働いている可能性が期待される。一方、類似遺伝子の全てがPSPとして働いているわけではない可能性も示唆されている。したがって、今後基質認識に重要なアミノ酸を特定できれば、類似遺伝子の中からPSPとして働いているものを正確に予測することができるようになり、それら生物のセリン生合成経路を理解する上で非常に有効である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、上述の新規タンパク質の結晶構造解析を行うことを計画していた。結果として、タンパク質の自体の構造解析に成功したにとどまらず、基質と結合した状態の構造も得ることができた。これにより、本タンパク質で基質の認識に重要な残基を特定することが可能になる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は変異タンパク質を用いて、上述の新規PSPにおいて基質認識に重要なアミノ酸残基を特定する、続いて、それらアミノ酸を保存している新規PSPの類似タンパク質遺伝子がHydrogenobacter以外のどの生物に存在しているか明らかにする。 加えて、本菌はセリン以外からもグリシンを生成していることが示唆されているが、その前駆体の生合成経路は不明であるため、これを明らかにする。この生合成経路の特定には、まず^<13>Cトレーサー法を用いて経路を予測し、次に予測された経路の酵素活性があるかin vitroで確認するのが有効であると考えている。
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