Research Abstract |
KamLAND-Zen実験とは,KamLAND検出器と136Xeを用いた二重ベータ崩壊観測実験である,KamLAND-Zen実験において,観測目標となるニュートリノレス二重ベータ崩壊のスペクトルピークを観測するためには,宇宙線ミューオン由来の放射性不安定核10Cとミニバルーン由来となる214Biの解析的除去が必要不可欠である.本研究において,KamLANDに新たに導入されたデッドタイムフリー電子回路を用いて,それぞれのバックグランドの除去を行うことで,ニュートリノレス二重ベータ崩壊の高感度測定を目指す.バックグランド除去を行うことでニュートリノ有効質量~50meVの感度への到達を目標とする. まず,10Cは,宇宙線ミューオンが12Cを原子核破砕することで生成されるが,90%の付随率で中性子も放出される.よって,宇宙線・中性子・10Cの3事象を遅延同時計測によってタグ付けすることが可能である.新型デッドタイムフリー電子回路を用いることで,既存電子回路では取得出来なかった宇宙線事象直後の中性子を捉えることができるようになった.取得した信号波形を基に合成波形を作成しピーク探索によって,中性子候補を選出した.その中性子候補に対し,TOFとVertex位置を考慮した波形の補正をすることで,中性子事象とノイズ信号を効率的に識別することができた.また,宇宙線のエネルギーに応じて,VETO範囲を効果的に増減させることで,VETO率と除去率の最適化を行った.その結果,現時点で約80%の10C除去効率を達成しており,今後,DAQのトリガーの改良により,更なる除去効率の上昇が期待されている. 214Biは,遅延同時計測によって,非常に高い効率で除去することが可能である.しかしながら,遅延同時計測の後発イベントである214Poの崩壊は,アルファ崩壊であるため,ミニバルーンのフィルム中で全エネルギーを損ない,検出されない可能性がある.購入した136Xeの全体積を有効に観測に使用するためには,PSD(波形弁別)による粒子識別が非常に有効である.アルファ崩壊を高い効率で識別可能になれば,214Biの娘核だけでなく,親核や更なる親核のアルファ崩壊との遅延同時計測を用いた214Biのタグ付けができるようになる.新型電子回路の長い波形取得窓と拡張性の高いトリガーロジックを利用して,シンチレーション光の遅い成分を測定することで,PSDによるアルファ崩壊の識別が可能になると考えている.本年度は,PSD研究のために,KamLAND検出器中に線源を入れるための装置を開発し,またその動作試験及びガンマ線源による測定を行った.KamLAND-Zen実験の開始によって,既存の較正用装置が使用出来なくなったが,その代替として,十分に機能することが確認できた.また,同時に136Xe含有液体シンチレータのエネルギー較正・位置依存性の補正を行うことができた.新型電子回路は,本年度も順調に稼動しており,既存回路とのrun切り替えの自動化や,異常発生時の通報システムの開発などを行い,滞り無くデータ収集が行えた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,KamLAND-Zen実験の立ち上げ年であったが,多少のスケジュールの遅れはあったものの,グループ一丸となって取り組んだことで,前期末には本格稼働することができた.まず,実験自体が軌道に乗ったことで,データ収集や解析,較正装置開発などに力をいれることができた.
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Strategy for Future Research Activity |
宇宙線事象直後の中性子の取得効率がまだ十分ではないが,これは電子回路・データ収集システム側に問題があることがわかっている.PMT由来のアフターパルスとよばれる擬似信号が,本物の中性子信号を取得する障害となっており,今後は,主にトリガーロジックの改良を行い,並行して,アフターパルスと中性子信号を識別する解析ツールの開発を行うことで中性子事象の取得率100%を目指す.これによって,目標の10C除去効率90%も達成が見込まれる. また,PSD用のトリガーロジックも新たに開発し,較正線源による粒子識別効率の見積りを行う,PSDによる粒子識別法が確立できれば,ミニバルーン表面までの136Xe全体積を使った二重ベータ崩壊探索が可能となり,ニュートリノレス二重ベータ崩壊の高感度測定を目指す.
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