Research Abstract |
本研究では,岩石に記録された大断層における剪断熱評価を目指している.そこで本年度は,日本陸上最大の断層である中央構造線(MTL)を研究対象として,MTL周囲の三波川帯岩石に記録された最高到達温度構造を明らかにし,MTL付近での熱異常(断層面に近づくにつれての温度上昇)発生の有無の検証に取り組んだ.MTLを貫通するボーリングコアとコア掘削地点周辺の野外調査を併用した数cm~数kmスケールの岩石サンプリング,これらのサンプルを用いた炭質物ラマン分光分析による最高到達温度見積り,および観察・記載データを用いた地質図・断面図・コア柱状図の作成を行い,MTL周辺の最高到達温度構造を明らかにした.得られた温度構造はMTL付近での熱異常を示し,大断層での剪断熱発生を強く支持する結果が得られた.この結果は,これまで他の大断層において熱異常未検出により一般的に支持されている"弱い"大断層という断層強度推定について再考が必要であることを示し,地震発生メカニズムや地殻強度推定にとって重要かつ大きな不確定パラメータとなっている断層強度の解明につながる,非常に意義のある成果である.さらに勢断熱の定量評価にむけ,一次元の熱モデリングも行い,見積られた温度構造とのキャリブレーションを試みた.ただし研究遂行上,より詳細な熱モデリングが必要となった.そこでイギリス・ブリストル大学において3ヶ月間,深成岩体の熱モデリングを専門とする同大学勤務のCatherine Annen博士のもとでプログラミングおよび熱モデリングを学び,Matlabを使った熱モデリングの技術を身に付けることが出来た.熱モデリングは,勢断熱のみならず地球内部の温度構造推定手法として,近年のコンピュータの発展とともに急速に進歩しており,その重要性はより一層高まっている.そのため,プログラミングおよび熱モデリング技術を取得出来たことは,今後の研究を発展させる上で,大変意義のある成果といえる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究達成目標としていた,ボーリングコア解析およびコア掘削地点周辺の野外調査を併用した詳細な記載・サンプリング,地質図・柱状図・断面図の作成,ラマン分光分析による温度見積り,これらのデータを組み合わせた剪断熱による熱異常発生の有無の検証を予定通り行うことが出来た.また,剪断熱の定量評価にむけた熱モデリングにも着手していることから,本研究は順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのコア解析,野外調査,温度見積りによって十分な天然のデータは得られており,今後は論文執筆に重点をおいて,研究を推進して行く予定である。また,剪断熱の定量評価にむけ,熱モデリングおよび見積られた温度構造とのキャリブレーションも同時進行で遂行して行く.より現実的な熱モデリングのためには,これまでに作り上げたモデルに修正が必要であることが明らかとなっており,熱モデリングの専門家であるAnnen博士とも連絡をとりながら,より詳細かつ現実的なモデルを完成させる.そして最終的には,MTL周辺での温度構造および熱モデリングによる剪断熱の定量評価という内容で論文をまとめ,投稿する予定である.
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