2011 Fiscal Year Annual Research Report
地上―衛星観測に基づく内部磁気圏の広エネルギーレンジの電子消失過程の解明
Project/Area Number |
11J03471
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
栗田 怜 東北大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 磁気圏物理 / ディフューズオーロラ / 波動粒子相互作用 / ホイッスラーモード / THEMIS / GEOTAIL / FAST |
Research Abstract |
波動粒子相互作用によって引き起こされるピッチ角散乱は、磁気圏内の高エネルギー電子の消失過程として重要視されている。また、高エネルギー電子のピッチ角散乱による大気降下は、ディフューズオーロラの生成メカニズムとして示唆されている。これらの高エネルギー電子の消失過程は、内部磁気圏の倦子ダイナミクス全体を考察していく上で非常に重要である。一方で、どのプラズマ波動が、どのエネルギー帯の電子をピッチ角散乱によって大気へと降下させ、磁気圏内電子の消失に寄与しているかは、長年未解明の問題であった。本研究では、人工衛星と地上観測点による同時多点観測を用いたケーススタディを重ねる事によって、波動粒子相互作用による消失過程を明らかにしていくことを目標に研究を行った。 本年度においては、オーストラリアで行われた国際学会IUGGや、サンフランシスコで行われた国際学会AGU fall meetingにおいて情報収集を行い、ディフューズオーロラ生成機構に関する最新の研究結果を得た。これらの情報を参考にした上で、南極点基地上空における低高度衛星FASTによる降下電子・磁気赤道域周回衛星GEOTAILによるプラズマ波動の同時観測イベントの解析を行った。本研究で解析されたイベントでは、南極点基地におけるオーロラ光学観測が行われており、ディフューズオーロラがみられていた。このような、過去の研究では例のない理想的な観測ジオメトリを活用し、イベント中での降下電子生成メカニズムについて観測データと理論計算を合わせて考察した。データ解析と理論計算の比較より、イベント中でのディフューズオーロラの生成機構は、近年の統計的なアプローチにより広く支持されているホイッスラーモード波動によるピッチ角散乱では観測事実を説明が難しく、かつて棄却されていた、ECH波動によるピッチ角散乱である結果を見いだした。高エネルギー電子の消失過程は、統計的描像で示されたホイッスラーモード波動によるピッチ角散乱だけではなく、ECH波動による効果も考慮に入れた議論が必要である事を提案した。また、磁気赤道域周回衛星THEMISの波動観測データを用いて、ホイッスラーモード波動とECH波動の統計的な分布を導出した。統計的な分布から、ホイッスラーモード波動とECH波動の分布に差異が存在していることが見いだされた。FAST衛星の降下電子データを統計的に用いてディフューズオーロラ降下電子の分布を導出したところ、降下電子のエネルギースペクトルの変化がある領域と、ホイッスラーモード波動とECH波動の分布の違いがある領域が良く整合する事が見いだされた。エネルギースペクトルの変化は理論からの予測とも整合しており、以上の結果から、ホイッスラーモード波動とECH波動の両方がディフューズオーロラ降下電子の生成メカニズムとして重要で、効果的にプロセスが働く領域には差異がある事を提案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初目標の1つとしていたディフューズオーロラの生成メカニズムの解明に関して一定の進捗があったことと、今後の研究遂行に必要となる数値計算アルゴリズムの構築も順調に進行しているため、研究は当初の予定の通りに、順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
現在進行している人工衛星と地上観測の連携観測の解析イベント数を増やしていき、統計的な描像を見いだしていく予定である。現在は比較的低エネルギー帯の電子(<30keV)の消失過程についての解析がメインであるが、今後は、より高エネルギーの電子(30-500keV)に関しても、同様の連携観測データの解析を進めていく予定である。また、上記の電子消失過程は、地球磁気圃内でのプラズマ波動の励起現象に強く関連している事が近年示唆されてきている。今後の研究では、電子消失過程のみならずプラズマ波動励起過程に関しても議論をしていく予定である。
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