2011 Fiscal Year Annual Research Report
二核活性型金属触媒の創出に基づく適用範囲の広い不斉バイヤー・ビリガー反応の開拓
Project/Area Number |
11J03551
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小熊 卓也 九州大学, 理学研究院, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 鉄サラン錯体 / 酸素酸化 / 第2級アルコール / 酸化的速度論的分割 / 2-ナフトール / 酸化的不斉カップリング / 鉄触媒 / 1-ナフトール |
Research Abstract |
本年度は研究題目の達成のため種々の金属触媒を調製し不斉バイヤー・ビリガー反応(BV反応)を試みた。多くの金属元素の中でも、資源枯渇の観点から、近年は鉄を触媒とした反応開発が活発に行われている。そこで、種々の光学活性な金属錯体のなかで、とくに鉄触媒を中心に反応を検討した。その過程で鉄サラン二核錯体が、触媒量の2-ナフトール存在下、大気中酸素を酸化剤として、アルコール類を対応するケトンへと酸化するという興味深い知見を見いだした。種々検討の結果、鉄サラン二核錯体が触媒量の1-ナフトールの存在下において、非常に良好な選択性で様々なラセミ体の第2級アルコールの酸化的速度論的分割を触媒する事を見いだした。本反応は、第2級ベンジルアルコール類やアリルアルコール類といった反応性の高いアルコール類だけでなく、反応性が低い脂肪族の第2級アルコール類に対しても適用可能である。酸素を酸化剤として用いた鉄触媒による第2級アルコール類の酸化的速度論的分割は、これまで基質がベンゾイン誘導体に限られており、本法によって、鉄触媒による一般的な第2級アルコール類の不斉空気酸化反応が初めて達成された。 鉄サラン二核触媒は前述のアルコールの空気酸化以外にも、2-ナフトール類の酸化的カップリングを触媒する。これら鉄触媒および分子状酸素を用いた酸化反応の機構は非常に興味深い。そこで、鉄サラン触媒のどのような性質が酸素酸化反応に肝要であるかを追求すべく、2-ナフトール類の酸化的カップリング反応に焦点を当て博士研究員の松本健司氏と共同研究を行った。種々の鉄サラン二核触媒および誘導体を調製しそれらのX線構造回折・CV解析等の手法により解析を行った結果、酸化的カップリング反応が進行するには、(1)鉄二核錯体の配位子間に分子内水素結合が形成されず、単核の鉄触媒に容易に解離すること、(2)単核の鉄サラン(2-ナフトキソ)種の酸化ポテンシャルが分子状酸素によって酸化される程に低いこと(3)-電子酸化されて生じるラジカルはナフトキソ配位子上であることなどが、必要な要因であることが分かった。これらは鉄触媒を用いた酸化反応のさらなる開発に重要な知見と期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
不斉バイヤー・ビリガー反応を検討する過程で、鉄(サラン)触媒を用いたアルコール類の空気酸化反応を見いだした。当初の目標である効率の良い不斉バイヤー・ビリガー反応(BV反応)を見いだすという点では、やや進行が遅れている。現在のところ、種々の光学活性な配位子および触媒を調製することができ、どのような金属および酸化剤を組み合わせるとBV反応に対して活性を示すかということが系統だって分かってきた段階である。
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Strategy for Future Research Activity |
不斉バイヤー・ビリガー(BV)反応の研究では、種々の金属錯体を調製しその触媒能の精査を継続する。前述の通り、どのような金属触媒がBV反応において触媒能を有するか明らかとなってきた。そこで、それらの知見をもとにより効率よくBV反応を触媒する金属錯体の開発に取り組む。また、不斉空気酸化反応も継続して行う。これまで、鉄触媒による脱水素型の不斉酸化反応の取り組みとして2-ナフトール類の酸化的不斉クロスカップリング反応やアルコール類の酸化的速度論的分割を達成してきた。そこで、より挑戦的な酸素原子移動型の反応にも焦点をあて、研究する。具体的にはBV反応を始め、オレフィン類のエポキシ化、スルフィド類の酸化等である。
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