2011 Fiscal Year Annual Research Report
神経細胞-グリア間の相互作用機序と、グリア活動が脳機能に与える影響を解明する
Project/Area Number |
11J03568
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
別府 薫 総合研究大学院大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | グリア細胞 / 小脳 / 光刺激 / チャネルロドプシン / プルキンエ細胞 / HOKR学習 / Flocculus / 光ファイバー |
Research Abstract |
グリア細胞の活動が神経活動や行動に及ぼす影響を調べる為に、アストロサイト特異的にチャネルロドプシンを発現させたトランスジェニックマウス(Mlc1-ChR2マウス)を用いて以下の研究を行った。 まず、急性単離した小脳スライス標本を用いた研究によって、光刺激したグリア細胞からグルタミン酸が放出され、プルキンエ細胞においてゆっくりとした内向きの電流が記録されることが明らかとなった。 また、In vivo条件下において、光ファイバーを通してマウスの小脳グリアを光刺激したところ、神経活動に依存して発現が誘導される遺伝子であるc-fosのmRNAが増加していることが観察された。従って、グリアの活動がプルキンエ細胞や顆粒細胞などの神経細胞の活動を引き起こしていることが示唆された。 次に、このようなグリアから神経細胞への情報伝達が動物の行動や学習にどのような影響を及ぼすのか調べた。小脳に依存した運動学習である水平視機性運動(HOKR)学習とは、スクリーンを正弦波状に動かすような視覚刺激を与えると、それを追従するような眼球運動が生じ、視覚刺激についていけるように、次第に眼球運動の振幅が増大する、といった運動学習であり、小脳のFlocculusという領域のシナプス可塑性に依存していることが分かっている。従って、Flocculusにできるだけ近い位置に光ファイバーを埋め込み、HOKR学習中にグリアを光刺激した場合の運動学習への影響を調べた。Flocculus付近のグリア光刺激に応じて、スクリーンの動きを追う眼球の滑らかな動きが錯乱し、瞳孔が一過性に拡大する、という予期せぬ現象が起きた。さらに、瞳孔拡大がおさまった後に、スクリーンを追う眼球の振幅が一過性に増加した。これらのことから、グリアー神経細胞間の情報伝達が、動物の行動や学習機能に関与している可能性が示された。グリアのIn vivoでの働きはほとんど未解明であるため、本研究はグリアが脳機能に与える影響や重要性を示した躍進的な研究内容である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
グリア特異的に刺激できる遺伝子改変マウスが手に入ったことや、In vivoでの光刺激システムとHOKR学習を組み合わせたセットアップが比較的スムーズにできたことから、当初の計画通りに研究が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
小脳バーグマングリアと神経細胞の情報伝達にはATPも関与していることが分かっている。しかし小脳のどの細胞がATPを放出するのか明らかではない。そこでATP放出元の細胞を同定するために、星状細胞やプルキンエ細胞、グリア細胞をそれぞれ特異的に刺激する方法を開発する。また、ATPを受け取ったグリアでのカルシウムの広がりや細胞間の伝播様式についての研究を行う。 また、小脳で観察されたグリア細胞-神経細胞間の情報伝達機序や行動への影響が、他の部位でも観察できるかを調べるために、網膜を用いたグリアー神経細胞間の伝達に関する研究も行う。
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