2012 Fiscal Year Annual Research Report
神経細胞―グリア間の相互作用機序と、グリア活動が脳機能に与える影響を解明する
Project/Area Number |
11J03568
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
別府 薫 総合研究大学院大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | アストロサイト / 神経細胞 / チャネルロドプシン / 水平視機性運動 / 小脳 |
Research Abstract |
脳内グリア細胞の活動が、動物の行動や学習といった高次脳機能にどのような制御機能を持つかを調べた。神経細胞が活動するとアストロサイトに発現するチャネルやトランスポーターを介して陽イオンが流入し、細胞膜が脱分極といった活動状態になることが知られている。我々は、神経活動に応じて活性化したアストロサイトが、どのようなフィードバックを神経細胞に返すのかを知ることで、アストロサイトの活動が脳機能に及ぼす影響を知るヒントにつながると考えた。そこで光感受性の陽イオンチャネル(ChR2)をアストロサイト特異的に発現させたマウスを作製し、脳細胞のうちアストロサイトの活動だけを光で制御できるシステムを構築した。自由行動しているマウスの小脳アストロサイトを光刺激したところ、神経細胞の活動マーカーであるc-fosが顕著に増加していることが分かった。これは、アストロサイトを刺激したはずが、神経細胞の活動を引き起こしたという、一見矛盾した結果に思えるのだが、実はアストロサイトから神経細胞への細胞間伝達機構が存在することの有力な証拠でもある。この情報伝達様式が高次脳機能に及ぼす影響を調べるにあたって、小脳依存性の運動学習である水平視機性運動学習(水平方向の視覚刺激に対する眼球の運動学習)を行った。水平方向の視覚刺激を追随するような眼球の動きはアストロサイトの光刺激直後に錯乱し、さらに瞳孔が開くような現象が一過性に観察された。そして驚くべきことに、眼球の振幅が増加して運動学習の効率が上がっていることも明らかとなった。動物のあらゆる行動は、神経細胞や筋肉の支配を受けていると考えられてきたが、それらの活動自体は、実はアストロサイトによる制御を受けていることを示唆す研究結果となった(Sasaki*, Beppu*, et al.PNAS,2012,*equally contribution)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は3年かけて遂行する予定だったが、すでに必要な実験はすべて終え、論文発表を終えたことから、当初の計画以上に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題を通して、グリア細胞からのグルタミン酸放出が神経活動を変え得ることが分かった。我々は、このようなグリア細胞からのグルタミン酸放出は病態時にこそ起こるのではないかと着想した。そこで、脳虚血などの病態時における高濃度グルタミン酸の放出源がグリア細胞であることを仮説として立て、虚血時のグリア細胞からのグルタミン酸放出のメカニズムを調べることで、脳虚血における神経細胞死を防ぐような新薬の開発を行うことを計画している。
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Research Products
(6 results)