2011 Fiscal Year Annual Research Report
幾何学的構造制御に基づくナノカーボン・スピントロニクスの開拓
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11J03636
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
平 久夫 北海道大学, 大学院・理学研究院, 特別研究員(PD)
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Keywords | スピン伝導 / 幾何学的効果 / Berry位相 / 軌道角運動量 / フォトニック結晶 |
Research Abstract |
本研究は、物質の幾何学的構造とスピン依存伝導特性の相関を解明することを目的としている。そのため、本年度は主に、ねじれた擬一次元フォトニック結晶中の光伝播特性に関する研究を行った。ねじれ変形が微小な場合、伝播方向の光の空間変化が断面方向のそれよりも十分小さいとした、Born-Oppenheimerの断熱近似を用いることができる。断熱近似を用いると、光伝播を記述する波動方程式は、一般にベクトルポテンシャルを含む形で表されるため、波動方程式の解にはBerryの位相項が付加される。Berry位相を起源とする物理現象は実に多岐にわたっており、光ファイバー中の偏光状態の回転現象や光のスピンHall効果等の光学系のみならず、量子Hall効果やトポロジカル絶縁体に関する現象等の電子系にまで及ぶ。従って、Berry位相に関わる新現象の発見は、その普遍的枠組みが広がることを示唆する点で重要な意味を持つ。 本年度は、Berry位相を起源とする新規物理現象の探索を理論的に行った。具体的には、ねじれ系において、Berry位相により光のスピン状態が変化することを理論的に明らかにした。スピン状態の変化を抽出するためには、異なるねじれ構造を有する物質中を伝播する光の重ね合わせが必要であることに着眼し、スピンをフォトニック結晶構造のねじれ変形により操作可能となる条件を精査した。その結果、スピンを操作するための条件が、光の軌道角運動量の差異であることが明らかとなった。さらに、スピンの大きさが2つの光波の位相差に対して周期的に振動することを見出した。これは、ねじれ変形誘起型Berry位相によりスピン・軌道双方の角運動量間に相関をもたらすことを意味する。ここで得られた成果は、Berry位相が、さらに広範な系で発現すること及び多彩な物理現象を示すことを明らかにした点で、極めて重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本年度は研究開始初年度であり、昨年度以前に従事してきた研究内容とは異なる考え方を要する。さらに、研究遂行上必要となる基礎知識及び研究手法に関しても新規習得が必要となる。これら基本的考え方、知識、研究手法の習得の必要性の認識に多くの時間を費やした。従って、研究推進方策、及び物理現象に対する新たな物の見方を吸収できた一方、論文発表及び学会発表を通した研究成果発信件数が当初の予定を下回る結果となった。以上の理由から、現在までの達成度は遅れているとの自己評価を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の経験を踏まえ、今後は新規研究に耐えうる基礎知識並びに研究手法の習得を試みる。具体的には、磁性体の研究で用いられるスピン波理論や動的構造因子等の計算手法の習得を目指す。特に、動的構造因子は系に何らかの外場が印加された時の応答と普遍化することができることから、磁性体のみならず強誘電体への適用や、光学伝導度の計算等、その応用範囲は多岐に渡っているため、その習得を加速することは重要と考える。これと並行して、所期の研究目的の達成度をさらに高めるために、同業研究者との議論を通した研究テーマ探しを積極的に行う。テーマ探しの際の密な議論は、研究分野の特性を勘案した課題抽出に資するものと考える。さらに、研究意義を一層深化させることを目的に、得られた研究成果の解釈も同業研究者との議論を通して行う。ここで述べた方策を通した当該研究課題の遂行は、さらに付加価値の高い成果を生み出すものと考える。
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Research Products
(2 results)