Research Abstract |
水は岩石鉱物の塑性変形を促進させる他,鉱物間での反応に寄与し,地球内部レオロジーに大きく影響を与える重要な物質である.本研究では,中部下部地殻のレオロジーを支配する長石に注目し,そのレオロジー特性に及ぼす水の効果に焦点を当てた.このことについて本研究は,天然試料の分析,室内変形実験の双方の観点から理解することを目的としている. まず天然の花崗岩質塑性変形岩に含まれる長石集合体領域に注目し,電子顕微鏡による表面形態観察や,後方電子散乱電子回折法(EBSD)による結晶方位測定を行いその変形機構について議論した.また,赤外分光法(IR)測定を行い,水の種類,量,分布について議論した.その結果,長石は溶液-沈澱クリープによって変形したことを明らかにし,変形に関与した水(H_2O流体)は数百ppmと少なく,溶液-沈澱に関与した水は変形時に放出した可能性を示した(Fukuda et al., 印刷中Tectonophysics; Fukuda 印刷中Intech). 次に水の量,状態と変形機構との関連性を定量的に評価するため岩石変形実験を行った.出発試料は5μm以下の人工灰長石100多結晶体を用いた.この試料はランダムな結晶方位で無水である.固体圧変形試験機を用い,温度900℃,封圧1GPaで試料近傍に蒸留水を添加し,試料中に水を導入した.~800MPaの差応力下,~10^<-5>/secの歪速度で変形実験を行った.その結果,変形の局所的な集中が見られ,この領域ではEBSD測定から結晶方位はランダムであり,粒径依存型クリープが卓越したことを示唆する.また,IR測定から,高含水量のゾイサイトが生成していることが確認された.このことは外部から水が導入されることによって,長石の粒径依存型クリープによって塑性変形が起こり,同時に反応鉱物が生成したと推察される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初,内陸地震の発生領域であったと考えられる福島県阿武隈山地付近の畑川破砕帯中の花崗岩質塑性変形岩の採取する予定であった.しかし同地域は原子力発電事故の影響で立ち入り禁止となった.よって,他地域の剪断帯試料を採取した(領家帯内部剪断帯(大阪府),足助剪断帯(愛知県)).これら地域も本研究の目的である長石のレオロジーと水の効果について考える上で重要な地域であり,研究を進めていく上で大きな支障はない.得られた成果について学会発表を行い,論文を公表した.よって達成度はおおむね順調に進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
変形実験では今後は一定温度,封圧条件下(ただしAn100+H_2Oの安定領域; 例えば900℃,1GPa)で,一定時間保持することによって,試料内部へ水を十分拡散させ,変形実験を行うことを計画している.つまり,含水量勾配による変形の促進,変化について評価する. 天然試料の分析では,含水鉱物の生成などから,変形と反応に関与した含水量を計算によって求める.また構成鉱物の赤外分光法測定から,含水量,水の種類(-OHまたはH_2O)をスペクトル形状から推察する.変形実験の結果を天然試料条件へ外挿することによって,水の輸送に伴う長石のレオロジー特性について明らかにする.
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