2012 Fiscal Year Annual Research Report
アリ類の長期間にわたる大量の精子貯蔵メカニズムとその進化の解明
Project/Area Number |
11J03964
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
後藤 彩子 琉球大学, 農学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 社会性昆虫 / 受精嚢 / 精子貯蔵 |
Research Abstract |
本研究では、アリ科女王が長期間(多くの種で10年以上)、大量の精子を貯蔵できるメカニズムを解明することを目的としており、メスの精子貯蔵器官である受精嚢に着目している。比較的受精嚢サイズが大きく、大量採集が可能なキイロシリアゲアリ(Crematogaster osakensis,)女王を材料にし、受精嚢で特異的に発現する遺伝子を特定し、さらにそれらが交尾前、交尾直後、交尾1年後でどのように発現パターンを変化させているかをRNA-seq法により網羅的に調べた。本種のゲノムは未解読のため、リード配列をアセンブリし、遺伝子配列を特定した。本解析で得られたほとんどの配列が既知の他アリ種と相同性を示し、また、一部の遺伝子をサンガー法によるシークエンスで配列を確認したところ、配列がほぼ一致したため、本種のdenovoアセンブリは成功したといえる。次に、遺伝子の発現量を推定し、体全体と比較して受精嚢で多く発現している遺伝子を探索した。その結果、精子貯蔵に関与すると予想していた抗酸化酵素、シャペロンタンパク、抗菌タンパク、受精嚢内環境に影響するイオンや糖輸送体をコードすると考えられる遺伝子や、具体的な機能は不明だが、発現量が極めて多い遺伝子もいくつか見つかった。さらに、アリ科でin situ hybridization法を確立し、これらの遺伝子が確かに受精嚢で発現が多いことと、詳細な発現部位を特定することができた。また、先行研究により、精子貯蔵期間が数週間と考えられているキイロショウジョウバエの精子貯蔵器官での発現遺伝子が調べられているが、本研究で調べられたアリ科女王の受精嚢とは異なる遺伝子発現プロファイルを示していることが明らかとなり、両者の精子貯蔵期間などの繁殖戦略の違いが反映されていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究でRNA-seq法をおこなうには、当初二つのことが懸念されていた。まずひとつめは受精嚢から得られるRNA量が少なく、シークエンスができるかどうかということ。もう一つは本種がゲノム未解読種であり、de novoアセンブリが成功するか不明であったことである。しかし、これらの2つは問題なくクリアでき、さらに、アリ科ではほとんど実施されていない切片によるin situ hybridization法も確立でき、発現部位を特定することができたことから、順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はRNAi法をおこない、RNA-seq法で絞り込まれた精子貯蔵に重要だと考えられる遺伝子の機能解析をする予定である。 また、受精嚢の内液の化学組成を測定し、RNA-seq法で得られた合成酵素や輸送体が機能していることの強い証拠を得られるように努力する予定である。
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Research Products
(3 results)