2011 Fiscal Year Annual Research Report
べん毛蛋白質輸送におけるATPase複合体の動的構造および機能の解明
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11J03987
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
原 典孝 大阪大学, 生命機能研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | べん毛蛋白質輸送装置 / ATPase / FliH / FliI / FlhA / in vivo部位特異的光架橋 / III型病原性因子分泌装置 / ATP合成酵素 |
Research Abstract |
本研究ではべん毛蛋白質輸送装置におけるATPase複合体(FliH/I/J)の動的構造と機能の解明を目的とする。 23年度は、輸送装置のプロトン透過活性制御に重要な役割を果たすと考えられるFliH-FliI複合体-輸送ゲート間相互作用様式を、遺伝学的手法及び、高い空間分解能を有するin vivo部位特異的光架橋法を用いて解析した。その結果以下のことを明らかにすることが出来た。 1.FliH-FliI複合体,FliR,FlhB及びFlhAの間の協同的な相互作用が蛋白質輸送を駆動している。 (Hara et al.,PLoS ONE,2011) 2.FliHのN末端が、輸送ゲート構成蛋白質のうちFlhAとのみ特異的に架橋すること、そしてこのFliH-FlhA間相互作用がFliIの輸送ゲートへの効果的なアンカリングに寄与し、その結果として効率的な蛋白質輸送を促進している。 これらの成果は、今まで不明であった、輸送ゲート構成蛋白質間の相互作用ネットワークの一端を明かし、さらにはダイナミックな離合集散を繰り返すATPase複合体(FliH-FliI)と輸送ゲート間の相互作用がFlhAの機能発現に重要な役割を果たしていることを見出したもので、べん毛蛋白質輸送装置の分子機構の解明に向けて重要な知見を与えたといえる。 また、23年度に取り組んだATPase複合体-輸送ゲート間相互作用は、べん毛蛋白質輸送装置と高い相同性がある赤痢菌やペスト菌などの病原菌が宿主に侵入する際に中心的な役割を果たす病原性因子分泌装置でも、必要不可欠な働きをしているため、病原菌による感染症の予防に向け、新たな標的機構を提示したことで、医療分野への貢献も期待できる。さらに共通の祖先から進化したと考えられているATP合成酵素と似た作動機構が輸送装置に存在することを示すことができ、両者の動作・設計原理解明に向け新たな知見を与えることが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目的の一つであるFliH-輸送ゲート間の相互作用解析は順調に進み、その機能的意義にまで迫ることが出来た。FliI-輸送ゲート間相互作用解析については、現在発現系の構築中ではあるが、実験系はFliH-輸送ゲート相互作用解析で確立しているため、迅速に行えると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度では主にin vivoでの遺伝学的・生化学的解析を進めた。そこで得られた知見から、プロトン駆動型輸送ゲートとATPase複合体が巧妙な仕組みで、かつ協同的に働くことによってべん毛蛋白質輸送が行われていることが示唆された。このように多くの因子が関係している系の分子機構の解明には、系の再構成を行い、本質に迫る必要があると考えた。そこで、本年度では研究計画のうち、べん毛基部体を含む反転膜小胞の調整法の確立と、その再構成系を用いた解析に重点をおき、ATPase複合体-輸送ゲートの蛋白質輸送機能発現の分子機構の解明を目指す。さらに、輸送装置とATP合成酵素の進化的な関係に着目した実験も行い、輸送装置の動作・設計原理を進化的側面からも明らかにすることを目指す。
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