2011 Fiscal Year Annual Research Report
一次元ナノ構造の非平衡キャリア緩和におけるラッティンジャー液体・CDWゆらぎ効果
Project/Area Number |
11J04088
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小野 頌太 北海道大学, 大学院・工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 光励起キャリア / 緩和過程 / フォノンボトルネック効果 / 横波フォノン / 超伝導ギャップ / 電荷密度波ギャップ / フラーレン重合体 / ポンププローブ分光法 |
Research Abstract |
本年度は「新奇なキャリア緩和機構の解明」を目指し、エネルギーギャップが転移温度以下で発現する系(ギャップ形成物質)の光励起キャリアの緩和過程に関する理論的研究を行った。光励起キャリアとは系にパルス光を入射したときにギャップ上端に生成される励起電子のことであり、そのエネルギー緩和過程にはフォノンボトルネック効果と呼ばれる緩和抑制効果がはたらく。この効果に伴い、キャリアの緩和時間はギャップの大きさに反比例する(=転移温度直下で発散する)ことが多くの超伝導物質や密度波物質で実験的に確認されている。しかし理論的予測に反し、緩和時間が転移温度直下で発散しない物質も存在し、既存理論との矛盾は解決に至っていない。さらに後者の物質群では転移温度よりも低温側における緩和時間の温度依存性が、既存理論の帰結と一致しておらず、その統一的な理解には達していないのが現状である。 研究代表者は、ギャップ形成物質の光励起キャリア緩和について転移温度直下でのキャリア緩和時間の発散・非発散、および低温増大現象を統一的に説明する新規理論を展開した。また、構築した理論の計算結果と実験結果とを比較し、理論の正当性を検証した。本研究の結果、以下の事実が明らかになった。 1、光励起キャリアの緩和時間の温度依存性は縦波フォノンモードから横波フガノンモードへの単位時間当たりのエネルギー散逸量に強く依存し、散逸量が増大するとき緩和時間は転移温度直下で発散する「発散型」から発散しない「非発散型」へと変化する。 2、従来のキャリア緩和理論で導出されていた衝突積分を正しく評価することにより、緩和時間の「低温で単調増大する」現象が再現される。 3、構築された理論は擬一次元C60重合体の実験データを定量的に説明する。この理論と実験の一致はC60重合体の電子基底状態が電荷密度波状態であることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当該年度の研究目的は「新奇な光励起キャリア緩和機構を解明し、擬一次元C60重合体の電子基底状態を明らかにすること」にあった。研究代表者は、ギャップ形成物質のキャリア緩和において縦波フォノンから横波フォノンへのエネルギー散逸が系の緩和を支配していることを明らかにし、光励起キャリアの緩和理論を独自に構築した。この理論により、C60重合体の実験データが定量的に説明され、系の基底状態が電荷密度波状態であることが明らかになった。(1)を選択した理由は、この理論が超伝導物質や密度波物質などの多くの実験データを従来の理論よりも精度よく再現するため、今後当該分野における標準的理論になり得るためである。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究によって、ギャップ形成物質の光励起キャリア緩和時間の温度依存性を記述する理論が構築された。今後の課題は、本理論をより多くの超伝導物質や密度波物質のキャリア緩和現象に適用し理論の有用性を証明することである。また理論から演繹される特異なキャリア緩和メカニズムを見出し、新奇な緩和現象の発現を予言することである。 以上の課題を遂行するために、超伝導物質や密度波物質のフォノンバンド構造の系統的調査、およびバンド構造とキャリア緩和現象との相関関係の解明を行う。前者の課題を遂行するために第一原理計算を行い、後者の課題遂行のために非調和相互作用定数を効率的に計算するための理論スキームの開発を行う。
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Research Products
(6 results)