2012 Fiscal Year Annual Research Report
発達性ディスレクシアの英単語認知における音韻と正書法の相互作用分析と指導法の開発
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11J04188
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
奥村 安寿子 北海道大学, 大学院・教育学院, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 発達性ディスレクシア / 文字列処理 / 事象関連電位 / 英語学習 |
Research Abstract |
事象関連電位(Event-related potential, ERP)を指標とし,単語や文字列に対する特異的な神経応答と文字列の読みや音韻処理の関連を検討した。第1の成果として,高速提示された文字列に対するERPにおいて刺激提示後100ミリ秒以内に出現し,非語よりも単語に対して増強する陰性電位を同定した。この単語特異的な初期視覚誘発電位の読み速度の個人差と相関があり,単語と非語の振幅差は読み速度が遅い参加者ほど大きかった。この知見は,発達性ディスレクシアのアセスメントにおけるERPの応用可能性を示した点に意義がある。第2の成果として,文字列に対して特異的な増強を示すN1/N170は言語的処理が最少化された状況下でも惹起されるという結果から,自動的な正書法処理を反映するERP反応であることを示した。これに続く実験では,単語,非語,逆単語(右から左に書いた単語)に対して音韻課題を行っている際のN1が単語と非語とで異なることが示され,正書法処理を反映するERP反応が音韻処理に調整されることが示唆された。これらの結果は,文字単語認知における音韻と正書法の相互作用分析において,相互作用のマーカーとなり得るERP成分を示唆した点に意義がある。 指導法研究では,発達性ディスレクシアのある生徒にフォニックス(音素と書記素の対応関係に基づく読み書き指導)とライム(母音+語尾子音)を用いた読み書き指導を継続した。その結果,フォニックスとライムの学習が進んだ生徒は英単語学習において,初めて見た語の読みを読みと綴りの対応規則に基づいて推測する,長い単語を読みやすいまとまりに区切る,単語の綴りを分かった部分から書いていく等の方略を使えるようになることが明らかになった。これらの方略から,フォニックスおよびライムの学習は,ディスレクシアのある生徒における英単語認知の様相を変化させることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
基礎研究において音韻処理や読みと関わる事象関連電位成分が示唆され,文字単語認知における音韻と正書法の相互作用を評価するマーカーの候補が得られた。指導法の研究では,発達性ディスレクシアのある生徒に有効な英単語の読み書き指導法は英単語認知の様相を変化させることが示された。これらの成果により,事象関連電位を指標として読み書き指導の成果を評価し,より有効な指導法の検討を進める準備が進んだことから,おおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の基礎研究により,音韻と正書法の相互作用および読み過程を評価する事象関連電位のマーカー候補が得られたため,来年度はそれらを用いて発達性ディスレクシアにおける文字単語認知の評価を行い,学習指導の効果測定に応用していくことを予定している。それを通じて,発達性ディスレクシアのある生徒に対して有効なフォニックスやライムの指導が,文字単語の認知過程どのような変化をもたらすかを調査し,より有効と考えられる指導法の開発につなげる。
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