2011 Fiscal Year Annual Research Report
初期宇宙におけるドメインウォール崩壊による重力波放出についての研究
Project/Area Number |
11J04306
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
齋川 賢一 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 宇宙論 / 重力波 / ドメインウォール / アクシオン / 素粒子論 / 暗黒物質 |
Research Abstract |
本年度はドメインウォールの生成を導く単純な模型で放出される重力波スペクトルと、アクシオン模型において存在が予言されるドメインウォールの性質を調べた。まず、素粒子模型を考慮しない単純なトイモデルにおいて、放出される重力波がどのような形になるのか詳しく調べた。 特に、重力波スペクトルを数値計算から直接求めるのではなく半解析的に計算する新たな手法を導入し、それに基づいて重力波スペクトルを再評価した。この方法により、将来の重力波観測に対するより正確な予言を行うことができることを示した。 また、具体的な素粒子模型としてアクシオン模型を考えた場合にドメインウォールの存在が模型に対してどのような制限を与え得るかという点について研究を進めた。アクシオン模型が正しかった場合、ドメインウォールが安定に存在し続けると現在の宇宙観測と矛盾することに着目し、ドメインウォールが不安定で進化の途中に崩壊するようなシナリオを調査した。数値シミュレーションの結果、あるパラメター領域では実際にドメインウォールの崩壊が起こることを確認し、その結果を用いてウォールの寿命の情報と他の観測的帰結からアクシオン模型のパラメター領域がどの程度制限されるかを詞べた。また、ウォールが崩壊する過程でウォールの持っていたエネルギーはアクシオン粒子および重力波として放出される。このうちアクシオンは現在の宇宙における暗黒物質に寄与するが、どの程度の量のアクシオンが放出されるかは詳しく知られていなかった。そこで数値シミュレーションの結果から放出されるアクシオンのスペクトルを正確に評価し、最終的なアクシオン暗黒物質残存量を求めた。この結果、崩壊の過程で大量のアクシオンが放出され得ることが明らかになり、模型のパラメターに対して従来の見積りより厳しい制限が与えられることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画ではドメインウォールから放出される重力波について調べるのみにとどめていたが、アクシオン模型に応用した際、放出されるアクシオン暗黒物質の量も重力波と合わせて重要な制限を与えることが明らかになり、さらにそのような模型において放出される重力波およびアクシオンのエネルギースペクトルを計算する複雑なシミュレーション・コードを本年度中に開発し、計算を遂行することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究により、アクシオン模型において予言されるドメインウォールの数値シミュレーション、および放出される重力波とアクシオンのスペクトルの計算が可能となったが、放出される重力波の性質が十分に理解されたとは言い難い状況である。そこで今後はアクシオン模型において予言されるドメインウォールから放出された重力波の周波数や強度が模型のパラメターにどのように依存するのか、またドメインウォールの生成を導く単純なトイモデルで計算された重力波のスペクトルと比較してどのような違いがあるのかという点について詳しく調べていく予定である。
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