2011 Fiscal Year Annual Research Report
地球温暖化に伴って北進する熱帯性魚類寄生カイアシ類の特定と防除のための基礎研究
Project/Area Number |
11J04311
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
上野 大輔 琉球大学, 理学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 有害寄生性カイアシ類 / 地球温暖化 / 水産被害 / 琉球列島 / 熱帯アジア / 新属新種 / ツブムシ科 / ホソエラジラミ科 |
Research Abstract |
本研究は、地球の温暖化による日本列島周辺の海洋環境の変動に伴い、熱帯アジアおよび琉球列島周辺に分布する有害寄生性カイアシ類が北上することによってもたらされる水産被害を未然に防ぐために実施するものである。昨年度は、当該海域の寄生性カイアシ類のファウナを明らかにすることに力を注いだ。琉球列島内では主にスキューバを用いて調査を行った。海洋研究開発機構の調査航海にも参加し、宮古南西諸島海溝の水深500~5,000mの範囲について、寄生性カイアシ類の調査を実施した。東南アジアでは、タイ国ウボンラチャターニー大学とソンクラー大学に滞在し、メコン川水系とソンクラー湖における寄生性カイアシ類調査を行った。これらの結果、約80種の寄生性カイアシ類を発見するに至り、少なくとも15種は未記載種である。このうち、重要な水産種であるハタ科魚類に肉体的損傷を与えるカイアシ類1種について、研究を進めた。本種はハッチェキア科に属し、その寄生様式はこれまでに知られていないものであった。本種の形態観察を行い、新属新種とした内容をSystematic Parasitology誌に投稿、査読中。 ブラジル,バイア国立大学に所属する寄生性カイアシ類の専門家Rodrigo Johnsson博士を訪問し、博士の専門とするカイアシ類の1群について共同研究を実施、現在も継続中である。その際、比較研究用標本の採集も近隣の海域の魚類を対象に付属的に行い、20種程度のカイアシ類を採集した。 その他、伊豆産ヘビギンポ類魚類寄生性のツブムシ科カイアシ類の1種と、フィリピン産カワハギ類魚類寄生性のホソエラジラミ科カイアシ類の1種を新属新種とする内容をまとめ、前者はZoosymposia誌で査読中、後者は投稿準備中。琉球列島産キンチャクダイ科魚類と水産種ヤコウガイから得られたカイアシ類を新種として記載した内容をZootaxa誌に投稿、印刷中。淡水域からは寄生性カイアシ類イカリムシを琉球列島初記録として報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の調査により、約80種の寄生性カイアシ類が発見され、そのうち15種は未記載種であることが分かったこの数は研究当初予測していたものを大きく上回るものであるため、研究を次のステップである寄生様式の解明まで進めることができなかった。しかし、予測以上に多くの寄生性カイアシ類が生息していたという事実は、研究開始当初は予想すること自体が不可能な驚愕の事実である。また、この中から現在まさに北上過程にある可能性が高い種や、近い将来の日本侵入が高い可能性で起こることが予測される種も発見され、早急な寄生性カイアシ類の研究の重要性をさらに決定づける結果が得られた。これらは、予想以上の成果であるとも判断できることから、昨年度における研究成果は、(2)おおむね順調に進展している、と自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
日本国内において重要な水産種であるハタ科魚類に寄生するLernaeenicus ramosus Kirtisinghe,1956は、これまでも日本列島太平洋岸において重要な水産種であるキジハタ等に寄生することが知られていた。近年は各地でハタ科以外の魚類にも重度な寄生が確認されたり、従来報告の無い日本海側にも出現するなどその分布を拡大している可能性が高い。昨年度の調査では、琉球列島産の多くのハタ類に寄生が確認されたものの、重度と呼べる寄生は確認されなかった。このことから、本種はもともと熱帯を起源とし、現在分布を北へと広げている可能性がある。 本年度は、引き続き寄生性カイアシ類のファウナ解明を実施するが、それに加えて、L.ramosusの生活様式、宿主への影響、分布などに関する研究も実施し、考察を深めたいと考える。
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