2011 Fiscal Year Annual Research Report
遷移金属酸化物におけるスピン-軌道結合と超音波応答
Project/Area Number |
11J04410
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
新居 陽一 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 超音波 / 軌道自由度 / スピン軌道相互作用 / スピン流 |
Research Abstract |
近年活発に研究が行われたマルチフェロイクス物質では、電気と磁気の結合による非自明な交差相関応答が存在する。その動的側面をみると「エレクトロマグノン」があり、これは光の電場で励起したマグノンである。このアナロジーを考えればスピンと軌道が結合した系では、弾性波で変調した軌道によって励起する「超音波誘起スピン流」の存在が期待される。本研究の最大の目的は、スピン軌道結合系において、力学的外部摂動としての超音波を入射したときの非自明となる非対角応答を観測することである。 本研究ではその目的のため低温磁場下で測定可能な超音波測定装置を立ち上げた。そしてスピネル型酸化物MnV_2O_4における磁場下での弾性定数を系統的に測定した。この力学応答を解析することによりMnV_2O_4における軌道揺らぎやスピン-軌道相関を見出した。特に、(磁性体におけるワイス温度に対応する)軌道間の相互作用温度Θが、磁化の二乗M^2に比例することを見出した。そしてこれはKugel-Khomskii型(~J(S_i・S_j)(O_i・O_J)∝S^2:O_iは軌道擬スピン演算子)の交換相互作用を考慮することで非常に良く理解できた。更に同様にして弾性定数の磁場依存性の振る舞いを新たなフィッティングパラメタの導入なしに解析できた。これは隣接サイト間のスピン-軌道結合としての交換相互作用を超音波応答から直接観測した点に大きな価値がある。また横波超音波の励起する格子回転効果を3d電子系で初めて観測し、これは本系において有意に原子内のスピン軌道結合が存在することを示している。これらの成果は、3d遷移金属酸化物中においても有効なスピン-軌道間の相互作用があることを超音波応答から示した点に大きな価値がある。今後、この相関を元にして本来の目的である非対角応答(超音波誘起スピン流)の観測が可能になると期待できる。更にその解釈にも大きな役割と果たすと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
超音波実験装置の立ち上げに成功するとともに、同時に作成を行ってきた大型単結晶試料も準備できた。弾性定数の温度依存性や磁場依存性に関する精密データを得ることができ、軌道秩序温度以上での軌道揺らぎを弾性異常(ソフト化)として観測することに成功した。また磁場下での測定から磁化と弾性定数に相関を観測し、軌道相関Θが磁化Mの二乗に比例する振る舞いを見出した。また、横波の励起する格子回転と軌道自由度やスピン自由度の相関をd電子系で初めて見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
H23年度の結果より、スピネル型酸化物MnV2O4の弾性応答より、本系におけるスピン-軌道-格子結合が明瞭に示された。このことから、本系における超音波誘起スピン流の存在が期待される。今後は、スピン流の検出にまず焦点を絞り、上記の動的交差相関物性の測定を試みる。
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Research Products
(3 results)