2011 Fiscal Year Annual Research Report
クマ類の絶滅リスク評価、現在と将来の生息分布予測モデルとその生態系復元計画の策定
Project/Area Number |
11J04520
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
土光 智子 横浜国立大学, 環境情報研究院, 特別研究員(PD)
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Keywords | ツキノワグマ / ヒグマ / 生息分布モデリング / 絶滅リスク / 将来予測 / 遺伝的多様性 / 生態系復元計画 / 日本 |
Research Abstract |
本研究では、「クマ類の絶滅リスク評価、現在と将来の生息分布予測モデルとその生態系復元計画の策定」を課題とする。まず、博士課程中において従事していた富士・丹沢地域個体群のツキノワグマを対象に、より精度の高い数理モデルを構築し、ツキノワグマの絶滅リスク評価と将来の予測分布シミュレーションを行い、次に都道府県ごとに異なる狩猟方針がツキノワグマの遺伝的多様性にどのような影響を及ぼすかを調査し、より抜本的な箱根への再導入や隣接した奥多摩地域の地域個体群とのエコロジカルネットワーク策定などをシナリオにした生態系復元計画を立案することを目的にする。同時に、日本全国のツキノワグマ、ヒグマを対象とするクマ類の生息分布モデリングに基づいた予測分布地図の作成と各地域個体群の生息頭数の予測を行うことを目的とする。具体的には以下のI.~IV.の4つのステップ:I.ツキノワグマの絶滅リスク評価と将来予測分布シミュレーション(富士丹沢地域個体群を対象として、年間最低気温の影響、各種道路への距離の影響、植生変化、人間による土地利用の影響に関するパラメーターの感度分析を用いて要因の影響評価を行い、各条件下でのツキノワグマの将来の地理的分布をシミュレーションする)、II.日本全国のツキノワグマ、ヒグマを対象とするクマ類の生息分布モデリング(既に開発したロジスティック回帰モデル式とMaximum Entropyモデルにより100mメッシュで空間分布をモデリングする)、III.狩猟方針が及ぼすツキノワグマへの遺伝的多様性の変化(各都道府県に委ねられている異なる狩猟方針が遺伝的に影響があるという仮説をヘアトラップ調査により実証する)、IV.ツキノワグマを対象とした富士丹沢地域個体群を核とした生態系復元計画のシナリオ解析(奥多摩地域個体群との遺伝子交流や絶滅した箱根国立公園への再導入計画などを検討)に準ずる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度(2011年度)においては、サブテーマの一つ「日本全国のツキノワグマ、ヒグマを対象とするクマ類の生息分布モデリング」に着手した。申請者の博士課程での研究において、50mメッシュでのツキノワグマ富士丹沢地域個体群の生息分布のモデリング手法を開発したため、本手法を応用して日本全国のクマ類(ツキノワグマとヒグマ)の地域個体群レベルでの現在の予測分布地図を作成し、各地域個体群の生息頭数の予測を行う。まず、全国のクマ類の生息分布に影響を及ぼすと思われるパラメーターを空間データとして収集し、空間分解能は100mメッシュで統一した。以上の研究成果は、日本生態学会第59回大会(ESJ59)&第5回東アジア生態学会連合大会(EAFES5)の国際会議にて、ポスター発表を行い、専門家から様々なインプットやコメントをいただいた。査読付き論文1本と分担執筆した本の出版ができたため、研究の進捗状況はおおむね順調とみなしている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在遂行中のサブテーマに関しては、今後の方針として、現在はサンプルの偏りが大きいため、対象地域を広範囲にカバーできるデータセットを引き続き収集したい。また、土地利用のデータも環境のレイヤーに含めて、人間の土地利用がクマ類の生息地選択に与える影響も考察してみたい。今回は、信頼性の高い生息密度の情報を得ることができなかったため、地域個体群ごとの生息頭数は計算しなかったので、これを今後の課題とする。鳥獣保護事業計画において、都道府県は個体数の推測調査等を実施することが求められているため、本手法は、今後のクマ類の有効な保護管理計画に役立つことが期待される。このサブテーマの論文化が終わり次第、他のサブテーマに順次着手する予定である。
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