2012 Fiscal Year Annual Research Report
FRET計測と網羅的遺伝子発現抑制を基盤とする細胞増殖情報伝達系のシステム生物学
Project/Area Number |
11J04556
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤田 芳久 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | FRET / システム生物学 / MAPK / Akt |
Research Abstract |
前年度行ったFRETイメージングを基にして、当研究室で既に作成されているRas/ERK MAPキナーゼカスケードについてのシミュレーションモデルに、RSKからTSC、RheBを介したRafへのフィードバックおよび、PI3KからRacを介したRafの活性化経路を追加した。新たにモデルに追加したシグナル経路における反応速度などのパラメータを推定するため、FRETイメージングの結果とシミュレーション結果を比較し、パラメータフィッティングを行った。新たなシミュレーションモデルはFRETイメージングの結果を再現した。FRETイメージング結果および新モデルによるシミュレーション結果を分析したところ、EGF刺激前、刺激後数分、刺激後30分の各時点で、それぞれのフィードバック経路のシグナルの強さが異なることを見出した。刺激前はRSKからRafへのネガティブフィードバックが比較的強く働いてERKの活性を抑えている。刺激直後はPI3KがRafを活性化する経路が強くなり、ERK活性が上昇するのを助ける。そしてさらに時間が経過するとERKからSosおよびEGFRへのネガティブフィードバックが強く働くようになり、ERK活性が減少する。癌細胞に分子標的薬を加えた時に細胞内シグナル伝達がどのように変化するかをシミュレーションで再現するため、モデルにEGFR、Ras、BRaf各分子の変異と、EGFR、BRaf、MEK各分子に対する阻害剤を追加した。このモデルを用いて、細胞に変異や阻害剤を導入するシミュレーションを行った。シミュレーション結果と比較するための実験データをWebデータベースのCancer Cell Line Encyclopedia (CCLE)より取得し、上記の変異と阻害剤に関するデータを抽出するためのプログラムを作成して必要なデータを得た。シミュレーション結果においてERK活性とAkt活性の和を出力としたとき、CCLEにおける細胞の生存、増殖を出力としたデータと高い相関が見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の通り、FRETイメージングの結果を基にして既存のシミュレーションモデルを拡張した。新たなモデルを用いてRas/ERKとPI3K/Aktシグナル伝達系における各種フィードバック制御がもたらす影響と意義を見出した。さらに、これまでは癌に関係するシグナル伝達経路を定量的に理解するにとどまっていたが、シミュレーションモデルに遺伝子変異や分子標的薬を導入することにより、より癌の治療に近い研究を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で構築したシミュレーションモデルを、将来の癌治療として注目されている分子標的薬の併用治療や個別化医療への可能性につなげるべく研究を進めていく。ERKとAktが細胞の生存、増殖にかかわることはよく知られているが、定量的な観点からは明らかにされていない。ERK活性とAkt活性から細胞の生存、増殖を定量的に予測できるような関数を求めることができればこのシミュレーションの意義はさらに高まるため、この点は今後追究していくべき課題である。
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