2011 Fiscal Year Annual Research Report
鯨類に残留する有機ハロゲン代謝物の蓄積特性と脳移行の実態解明
Project/Area Number |
11J04570
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
落合 真理 愛媛大学, 大学院・理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 鯨類 / 環境汚染物質 / OH-PCBs / OH-PBDEs / 代謝物 / 中枢神経系 / 脳移行 / 化学分析 |
Research Abstract |
本研究は、環境汚染物質やその代謝物が鯨類の中枢神経系に及ぼす影響を理解するため、脳内に残留するOH-PCBsとOH-PBDEsの分析法を開発し、蓄積特性と脳移行について検証することを目的とした。初年度(23年度)は分析条件を検討し、脳および肝臓に残留するOH-PBDEsと3-8塩素化体OH-PCBsの新規分析法の開発に成功した。既存の分析法からの改良点はクリーンアップ条件と誘導体化効率であり、夾雑物質が多量に含まれるサンプルにおいても、幅広い異性体分析が可能となった。分析試料として鯨類の中でも沿岸性が強く、人間活動の影響により個体数の減少が危惧されているスナメリ(Neophocaena phocaenoides)を選択し、血液と脳に残留するOH-PCBsとOH-PBDEsを分析して詳細な蓄積パターンの解明と脳移行について解析した。すべての個体の脳からPCBs、PBDEs、OH-PCBs、OH-/MeO-PBDEsが検出された。PCBs、PBDEs、OH-PCBs、MeO-PBDEsは、血中よりも脳組織に高蓄積していた。しかしながら、OH-PBDEsは脳よりも血中で有意に濃度が高く(p<0.01)、OH-PBDEsはOH-PCBsに比べて脳に移行・蓄積しにくいことが予想された。さらに、pCBsとPBDEsは血中濃度と脳内濃度の間に有意な正の相関が認められ(p<0.05)、脳内濃度は血中濃度依存的に上昇することが判明した。血液および脳中OH-PCBs濃度にも有意な正の相関が認められ(p<0.05)、OH-PCBsはTTRに結合して血液脳関門を通過し、脳へ移行していることが示唆された。PCBsおよびPBDEsは血液と脳組織中の異性体組成が類似していたのに対し、OH-PCBsでは異なる異性体組成が認められた。血液では3、4塩素化体の割合が比較的高割合を示したのに対し、脳内では5塩素化体が高値であり、5塩素化OH-PCBsの脳への特異的な移行・残留が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の目標であった脳および肝臓に残留するOH-PBDEsと3-8塩素化OH-PCBsの新規分析法の確立に成功し、ネズミイルカ科の小型鯨類(スナメリ)の脳に蓄積するこれら化合物の汚染実態と蓄積パターンを解析できた。また、脳へ移行・残留しやすい異性体を特定し、脳神経系へ及ぼすリスクも示唆できた。学術誌への投稿と学会発表も順当に行えたことから、初年度の目的はほぼ達成できたと自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究成果により、環境汚染物質やその代謝物の脳内分布、ならびに鯨類の中枢神経系に及ぼす影響を理解することが急務であると考えられる。よって今年度は、交付申請書において3年目に計画していた脳の部位別解析を目標に研究を優先する予定である。混獲・漂着した鯨類の脳を大脳(前頭葉、後頭葉、側頭葉)、海馬、視床下部、小脳、脳下垂体、脳脊髄液などに分別した後、各部位について汚染物質の濃度と異性体組成を解析する。さらに得られたデータより、残留しやすい部位の特定や蓄積パターンを理解し、神経系へ及ぼす影響について考察することを目的とする。
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