2012 Fiscal Year Annual Research Report
鯨類に残留する有機ハロゲン代謝物の蓄積特性と脳移行の実態解明
Project/Area Number |
11J04570
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
落合 真理 愛媛大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 鯨類 / 環境汚染物質 / OH-PCBs / OH-PBDEs / 中枢神経系 / 脳 |
Research Abstract |
本研究は、環境汚染物質やその代謝物が鯨類の中枢神経系に及ぼす影響を理解するため、脳内に残留するポリ塩化ビフェニル(PCBs)、ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)およびその水酸化代謝物(OH-PCBs、OH-PBDEs)の蓄積特性と脳移行について検証することを目的とした。本年度(24年度)は初年度に引き続き、OH-PCBsとOH-PBDEsの脳移行について検証するとともに、脳試料を部位別に分析し、これらの化合物が残留しやすい脳部位を特定することで、脳神経系への影響やリスクについて考察した。分析試料として、鯨類の中でも沿岸性が強く人間活動の影響により個体数の減少が危惧されているスナメリ(Neophocaena phocaenoides)を選択した。日本沿岸に座礁・混獲したスナメリの脳試料を8部位(前頭葉、後頭葉、小脳、辺縁系、視床下部、脳下垂体、橋、延髄)に分別し、OH-PCBsとOH-PBDEsの蓄積パターンについて解析した。その結果、すべての脳部位からOH-PCBsおよびOH-PBDEsが検出された。それぞれの脳部位で蓄積特性に差が認められたことから、OH-PCBsの脳内分布は異性体特異的であることが明らかとなった。 また、ほとんどの脳部位で血中濃度と同程度のOH-PCBs、OH-PBDEsが検出されたのに対し、脳下垂体は血中濃度より2-3倍高値を示し、脳部位の中でとくに高蓄積していることが明らかとなった。脳下垂体はホルモン生成の重要な部位であるため、化学物質の特異的な蓄積による内分泌系のかく乱が懸念された。また、本年度は約一カ月間ドイツのHelmholtz Centre for Environmental Research-UFZにて、血液と脳の主要構成成分であるリン脂質膜、貯蔵脂質、タンパク質(BSA;アルブミン)と生理食塩水を供試して化学物質の平衡分配係数(K)の測定技術を習得した。今後はこの技術を活かし、環境汚染物質の脳移行・脳内分布を化合物の物理化学性を踏まえて解析したいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は順調に遂行できており、スナメリにおけるOH-PCBsおよびOH-PBDEsの脳移行・脳内分布解を中心とした本年度の目標は達成できたと考えている。本年度は海外研修にも参加し、新たな技術の習得や学術交流を通して国際共同研究体制を構築することができた。また論文投稿や学会発表も活発に行えたことから、研究の充実度は高いと自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究により、環境汚染物質およびその代謝物の脳内分布や蓄積特性について解析を進め、これらの化学物質が鯨類の中枢神経系に及ぼす影響を理解することが重要と考えられた。研究計画はほぼ当初の予定通り推進できており遂行上の問題はないが、研究計画の変更点として、来年度は当初予定の肝臓に加え引き続き脳を対象とした分析も継続する予定である。現在はスナメリを対象としているが、他の鯨種についてもOH-PCBsおよびOH-PBDEsの脳内分布を解析し、これまでの結果と対比することで蓄積特性の種間差を明確化するとともにリスクの高い鯨種を特定する。
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Research Products
(9 results)