2011 Fiscal Year Annual Research Report
慣習的規範の多様性の自然主義的解明とジェンダーの脳神経倫理への応用
Project/Area Number |
11J04571
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
筒井 晴香 立教大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 慣習 / 共同行為 / 共通知識 / 社会科学の哲学 / マーガレット・ギルバート / セックス/ジェンダー / 脳の性差 / 脳神経倫理学 |
Research Abstract |
本研究の大目標は慣習的規範の解明である。慣習的規範とは、例えばお辞儀など、単なる合目的性といった観点からはそれに従う必然性を説明しきれないような規範である。慣習的規範の持つこのような特徴は、我々はなぜ規範を持ち、規範に従うのかという重要な問いの根本に関わるものである。さらに本研究では、応用研究としてジェンダーの脳神経倫理をテーマとし、脳の性差に関する研究や言説の背後にあるジェンダー規範について考察する。 本年度は、慣習的規範を共同体に深く関わるものとして捉えるという点を明確に打ち出した。具体的には共通知識、共同行為に関する検討を重点的に行った。これにより共同性に由来する規範性について論じるためのしっかりした基礎が得られ、また国内外の諸研究との関連付けがより容易になる。 慣習論や共同行為論における基礎概念である共通知識概念を巡っては、語用論の分野における成果を参照しつつ、基礎的で自然発生的な共同性という観点から考察を深め、本研究の文脈に組み込んだ。これにより、共同性に関する多層的な描像が可能となる。この成果は国内学会にて発表を行い、議論の場を得た。 さらに、共同行為論における、M.ギルバートに代表される非還元主義とM.ブラットマンに代表される還元主義の対立という軸を手掛かりに、ギルバートが着目する共同性の明確な特徴づけを試みた。これはギルバートが強調する、共同体において人々が持つコミットメントとそれに由来する義務・権限という点を浮き彫りにする上で有効である。この成果は現在執筆中の博士論文において重要な論点を成す。 ジェンダー研究に関しては、2012年度刊行予定のジェンダー・スタディーズ入門書の脳の性差に関するセクションを執筆した。これは当該分野の重要性の認知度向上におおいに貢献するものと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
慣習的規範の解明というテーマにおいて、共同行為論を手掛かりに、共同性に由来する規範性の分析を行うという新たな視座を得たことにより、現在執筆中の博士論文の方向性に若干の変更が生じたが、これによって議論の焦点の明快さ、発展性が増し、研究目的の遂行にとって有効であると考えられるため。
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Strategy for Future Research Activity |
共同性概念を中心に据えた論考を博士論文としてまとめ、慣習的規範に関する考察へと発展させて国内外の学会での発表、論文投稿を行っていく。ジェンダーの脳神経倫理への応用に関しては、今後はジェンダー論、フェミニズムとの接続をより強めていきたい。 現在、分野横断的な研究会に複数参加し、共同行為、そしてジェンダーというテーマについて研究交流・議論を深めている。これについては今後も継続的に取り組んでいく。
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