Research Abstract |
本年度の研究において,昨年度の研究成果,すなわち,動的酸化還元系の金電極表面上への固定化,そして表面上での酸化還元の実現について,比較化合物として,金表面上へのアンカー部位であるリポ酸エステル部位を,アンカーの機能をもたないアセチルエステルへ変更した化合物の合成を行った.さらに,その過程において,母骨格であるビス(スピロアクリダン)置換ジヒドロフェナントレンについて,その骨格構造の特徴として,以下に述べるような新たに興味深い知見を得ることができた. 10-メチルアクリダンが9,10位で2つスピロ縮合したジヒドロフェナントレンは,アクリダン部位の立体反発により,C_9-C_<10>結合長が標準の単結合(1.S4Å)よりも長い1.6Å程度となることが知られている.前述の比較化合物についてX線結晶構造解析を行い,分子構造について,これまで合成された類縁体と系統的に比較を行ったところ,ジヒドロフェナントレン骨格のねじれが大きくなるものがより長いC_9-C_<10>結合を有する傾向にあることを見出した,そこで,ベイ領域の置換基を変更し,種々の類縁体を合成し,同様の比較を行った.その結果,新たに今成した化合物についても同様の傾向が見られた.このことは,ビス(スピロアクリダン)'置換ジヒドロフェナントレンにおいて,骨格のねじれにより,C_9-C_<10>結合を伸長できる可能性を示している.また,これは,過去に所属研究室において見出された,テトラアリールピラセン類で見られる.ものとは逆の傾向であり,非常に興味深い結果であるといえる. また,本年度,独立行政法人物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニク冬研究拠点ナノグリーン分野ナノ界面ユニットナノ界面グループとの新たな共同研究を行い,金表面上でランダムアクセスメモリの機能の実現のためのポリビピリジン化合物の合成を検討し,実際にその合成に成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究成果により,当初の目的である金表面上への動的酸化還元系の構築だけではなく,骨格のねじれと結合長の相関という,構造有機化学的に興味深い知見を新たに得ることができた.これは,以前研究が行われた,剛直な母骨格を有するテトラアリールピラセン類とは異なり,比較的柔軟な骨格を持つ化合物群での長い炭素・炭素結合についての情報を与えるものであり,長い炭素・炭素結合の形成条件について,非常に重要な知見であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,長鎖のメルカプトアルキル基を導入し,リポ酸エステルより整った配列で金表面上へ固定化が可能と予想される化合物の合成を行い,この分子による金表面の修飾や膜形成能,表面上での酸化還元挙動について調査を行う.' また,今年度の研究につづいて,ビス(スピロアクリダン)置換ジヒドロフェナントレンのバリエーションを増やし,骨格のねじれとC-C結合長の傾向のさらなる確認と調査,そしてより長い結合を持つ分子の合成も検討する.
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