2012 Fiscal Year Annual Research Report
心理的本質論に関する適用メカニズムの解明から応用へ
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11J05143
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
塚本 早織 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 心理的本質主義 / 社会的カテゴリー / 偏見 / 集団間関係 |
Research Abstract |
社会的カテゴリーの認知に用いられる,素人なりの基準として知られている「心理的本質主義」に関する実証的研究を行った。心理的本質主義とは,社会的カテゴリーに不変で核となる本質的実体の存在を錯覚し,その本質的実体の有無がカテゴリー成員であるかそうでないかを規定すると感じる際に用いる信念を指す。心理的本質主義は,カテゴリー間の境界線やカテゴリーの凝集性を認識しやすくさせることから,自分が所属する集団とは異なる集団(外集団)に対する排他的な態度を形成する重要な要因であることが指摘されてきた。このように,心理的本質主義と偏見的態度の関連性に関する指摘がなされていながらも,心理的本質主義が偏見的態度へ与える因果的影響について十分な証拠が得られていないという現状がある。そこで,心理的本質主義に基づくカテゴリー認知を実験的に操作し,本質に基づく民族カテゴリーの認知が偏見的態度を助長する可能性を実証的に検証した。その際,カテゴリーの認知的側面に対する操作とは別に,偏見的態度を助長するような情緒的な操作も行い,認知と情動の両側面が偏見的態度の表明に与える影響を明らかにすることを試みた。偏見的態度の表明は,特定の民族に対してどの程度「あたたかい感情」を感じるかについて回答することで測定された。その結果,情緒的な操作はその後の偏見的態度の表明に直接的な影響を与えず,心理的本質主義によるカテゴリー認知の操作の影響のみが認められた。すなわち,認知的な介入の方が情緒的な介入よりも偏見的態度の形成に寄与することが示唆された。この結果から,特定の民族カテゴリーに対する態度を情緒的な方法で操作することは難しく,認知的側面からのアプローチにこそ,態度変容の可能性が存在することが指摘できる。このことは,今後の偏見低減に向けた研究を行う上で,情動的な介入ではなく,認知的な介入方法が有効である可能性を示唆したといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
偏見的態度を規定する重要な要因である心理的本質主義の適用に関するプロセスの解明を目指し,実証的知見を積み重ねている。それに加えて本年度は,実証的研究の計画,結果の解釈において重要となる心理的本質主義の概念を整理する試みをはじめ,より精緻な心理的本質主義の適用過程の解明を目指した。実証的知見の蓄積と理論や概念の整理の,双方向からの取り組みは,それぞれ前進しているものの,相互の効果的な作用を実現するためには更なる研究の発展が必要となる。この点を踏まえ,おおむね順調であるという評価に達した。
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Strategy for Future Research Activity |
実証的研究の計画を遂行するために,理論や概念の更なる精緻化が求められる。したがって,今後は社会心理学のみならず認知や発達などの心理学的分野や言語学や人類学などの他分野から心理的本質主義の概念を広く捉えることで,今まで曖昧にされてきた心理的本質主義に基づくカテゴリー認知の学術的定義と事象的事実の一致を明確化する。整理された概念や理論に基づき,心理的本質主義の信念を様々な側面から測定する尺度を再構築することで,カテゴリー認知の階層性や下位項目間の因果的関係について明示することを目標とする。さらに,新たに作成した尺度を,実証的研究で実践的に使用することで,本質認知が推論や態度形成に与える影響過程の説明を精緻化する。
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Research Products
(5 results)