2011 Fiscal Year Annual Research Report
赤外線衛星観測によって解き明かす、銀河の一生とその物質進化の関係
Project/Area Number |
11J05457
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山岸 光義 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員DC1
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Keywords | 赤外線 / 「あかり」衛星 / 銀河 / 物質進化 |
Research Abstract |
「あかり」衛星の指向観測データを基にした銀河の解析として、近赤外線分光観測データ(波長2.5-5.0μm)を用いた、近傍銀河における星間氷と多環芳香族炭化水素(PAH)に関する研究を行った。星間氷は、銀河における温度、化学状態、輻射環境に敏感であると考えられており、星間環境の指標として非常に有用な物質である。しかし、これまで近傍銀河において氷を検出し、議論を行った先行研究は1例しか存在しない。そこで私は、「あかり」によって得られた、近傍銀河122天体に対する近赤外線分光観測データを解析し、星間氷(H_2O氷、CO_2氷)の探査を行った。探査の結果、122天体のうち36天体からH_2O氷、9天体からCO_2氷による吸収を検出した。また、H_2O氷の柱密度は水素の再結合線であるBrα輝線の強度と良く相関しており、CO_2氷はBrα輝線の強い領域でしか検出されていないことがわかった。以上の結果から、H_2O氷、CO_2氷の生成においては、それぞれ分子雲の密度、輻射環境が重要な要因になっている可能性があることを明らかにした。 また、近傍銀河M82に対して、近赤外線分光観測を用いたPAHの研究を行った。M82は、銀河の南北に大規模な物質のアウトフロー(スーパーウインド)を持ち、銀河円盤からハローにかけての物質の状態を知るために有用なターゲットである。その結果、銀河中心から2kpcというスーパーウインドの先端でPAH3.3μmの放射をクリアに検出した。このことは、スーパーウインドという激しい環境下においても、PAHという小さな分子が存在しているということを示している。さらに、銀河の中心からハローにかけて、PAHに対する鎖状炭化水素の割合が増加していることを示した。このことは、スーパーウインド中で、サイズの大きなダストの破砕によって、鎖状炭化水素が生成されているという可能性を示唆しており、ダストの変性をクリアに捉えた重要な観測例である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近傍銀河M82のスーパーウインド中におけるPAHについて研究を行い、その成果を投稿論文としてまとめた。この成果は、銀河の円盤からハローにかけての、星間ダストの分布と物理状態を議論する際の、重要な材料の1つとなる。
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Strategy for Future Research Activity |
「あかり」衛星の指向観測データを基にした、個々の銀河に対する解析は、これまで通り、多波長のデータを併用しながら行う。特に、「あかり」衛星の特徴の一つである、近赤外線分光観測を基にした、星間氷の解析を進める。この際、ヘリウム枯渇後の観測期間(Phase 3)で得られたデータについては、「あかり」と同型の検出器の地上フォローアップ実験データを基に、スペクトルのシグナル-ノイズ比の改善を行う。さらにこれらに加えて、「あかり」の全天サーベイ観測によって得られた中間、遠赤外線のマップを活用し、データセットの充実、系統的な議論に取り組む。
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Research Products
(10 results)