2012 Fiscal Year Annual Research Report
琵琶湖堆積物の高精度分析による最終間氷期から最終氷期への移行期の気候変動の解明
Project/Area Number |
11J05467
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
長澤 重信 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 古気候 / 第四紀 / 琵琶湖 / 湖沼堆積物 / 高精度分析 |
Research Abstract |
本研究は, 琵琶湖底堆積物に記録された過去30万年間の気候変動を詳細に明らかにし, 最終間氷期から最終氷期への移行期の気候変動の特徴を解明することを目的としている. 平成23年度には, 過去24万年間の気候変動を明らかにすることを目的として, BIW08Bコア(掘削長 : 100m)から11cm間隔(約350年間隔)で採取した試料の生物起源シリカの含有量と鉱物粒子の粒度分布の分析を実施した. 琵琶湖底堆積物中の生物起源シリカの含有量と鉱物粒子の中央粒径値は, 降水量の変動を反映している可能性が先行研究によって指摘されている. しかし, BIW08Bコアの生物起源シリカの含有量と鉱物粒子の中央粒径値の変動は同期しない. そこで本年度は, 生物起源シリカの含有量と同様に湖内の生物生産を反映すると考えられている炭素含有量の分析を実施した. 生物起源シリカの含有量と炭素含有量には正相関が認められ, 大まかに変動のパターンが同期している. 湖内の生物生産は, 降水量だけでなく他の気候や生物地球化学的な要因にも影響をうけるので, 生物起源シリカの含有量が降水量の変化を反映しているとはいえない. 鉱物粒子の中央粒径値には, スパイク状に増大する期間が認められる. また, 湖内の生物生産の指標である生物起源シリカの含有量や炭素含有量の変動と一致しない. 鉱物粒子の中央粒径値は洪水などの特殊なイベントを反映している可能性がある. さらに, これらの解釈をより厳密にするために, BIW08Bコアの上部80mに関して5m間隔で炭酸塩の分析を実施し, 炭酸塩の供給源として想定される風成塵の発生地域の試料を採取した. BIW08Bコア堆積物中には, 従来から言われていた炭酸塩の含有量より多くの炭酸塩が含まれており, 新たな気候変動の指標となる可能性がある. 今後, 炭酸塩についてより詳しく検討し, 生物起源シリカの含有量, 鉱物粒子の中央粒径値, 炭素含有量, 炭酸塩含有量の変動をもとに過去30万年間の気候変動の詳細を解明する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
琵琶湖底堆積物に記録された過去30万年間の気候変動を解明する上で, 湖底堆積物が保持する情報を明確にすることが重要になる. 生物起源シリカの含有量と鉱物粒子の中央粒径値に加え, 炭素含有量という新たな指標を導入することにより琵琶湖底堆積物が持つ情報がより明確になった. また, 炭酸塩の含有量と酸素・炭素同位体比の分析を行なうことにより炭素含有量の変動パターンをさらに詳細に検討することが可能であることが明らかになった. 以上のことから, おおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では, 東アジアの広域大気循環の変動の新たな指標として, 堆積物中の石英粒子の酸素・ケイ素の同位体比の導入を計画していた. しかし, 石英粒子の酸素・ケイ素同位体比の有用性を検討するため今年度に予定していた風成塵の発生源地域の表層土壌の採取が2012年9月頃に発生した日中関係の悪化により行なえなかった. その一方で, これまで琵琶湖底堆積物中には極微量にしか存在しないと考えられてきた炭酸塩が層準によってある程度存在することが明らかになった. 新たな指標として石英粒子の酸素・ケイ素の同位体比を導入することも重要であるが, 堆積物中の炭酸塩はこれまで分析を行なったデータ(特に炭素含有量)の解釈に大きく影響する可能性がある. そこで平成25年度は, 炭酸塩の供給源のひとつとして考えられる代表的な風成塵の発生源地域の表層土壌の採取を行ない, BIW08Bコアなどの炭酸塩の含有量と酸素・炭素同位体比の分析を優先的に行なう.
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