2012 Fiscal Year Annual Research Report
環境化学物質が大脳皮質形成に及ぼす発達神経毒性影響に関する研究
Project/Area Number |
11J05801
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
遠藤 俊裕 東京大学, 大学院・医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 化学物質 / 環境 / 神経発生 / 行動 |
Research Abstract |
大脳皮質の正常な発生は、生涯にわたる健康的なこころの発達・維持において重要であることが知られている。本研究は様々な環境化学物質ばく露モデルマウスを用い、環境化学物質が大脳皮質発生に及ぼす影響を明らかにすることを主たる目的としている。 本年度は、当初の計画に従い、妊娠後期の母マウスに投与したダイオキシンが母体内の胎仔マウスの大脳皮質発生に及ぼす影響を調べた(投与スケジュールはEndo et al., PLOS ONE, 2012を参照)。母体にダイオキシンを投与後、胎仔マウスの大脳皮質新生神経細胞をIUE法により蛍光標識した。5日後、胎仔の脳を取り出し、組織切片を作製して蛍光標識されている神経細胞を蛍光顕微鏡で観察した。その結果、ダイオキシンを投与された母親の胎仔の脳では、神経細胞移動の顕著な遅れや細胞形態異常が見られ、正常な大脳皮質の発生が障害されていることが明らかになった。続いて、このような神経発生毒性の分子的メカニズムを明らかにするため、これらの胎仔の脳の遺伝子発現解析を行った。その結果、ダイオキシンを投与された母体内で育った胎仔の脳内では、神経細胞の分化・機能に関わる遺伝子発現量が変化していることが明らかになった。尚、このモデルについては、最終年度に予定している生後の発達時系列を追った経時的神経毒性解析の為のサンプルを作成済みである。これらの結果は、私が筆頭著者として本年度PLOS ONE誌に発表した「周産期低用量ダイオキシンばく露による高次脳機能及び社会行動異常」の発生メカニズムの一端を担っていることが強く示唆される。以上の成果により、これまで明らかでなかった「環境化学物質によるこころの発達への影響」に対する理解が、分子・細胞レベルから行動レベルに至るまで大きく前進したといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在まで、IUE法を用いたダイオキシン、ビスフェノールA、ニコチンの大脳皮質神経発生毒性評価、およびintellicageを用いた新たなマウス行動試験系の開発の両面に関して、計画通り遂行出来ている。また、これらの成果については国際学会での発表、国際誌への論文発表、その他アウトリーチ活動を行ってきた。さらにダイオキシンに関しては、最終年度に行う計画であった「IUE法を利用した、毒性発現の標的分子、分子・細胞メカニズムの探索」について、ダイオキシンの細胞内応答関連分子の強制発現系を用いた実験を既に進め、ダイオキシン発生神経毒性メカニズムを明らかにする興味深い知見を複数得ており、現在さらなる解析を進行させている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に明らかになった「ダイオキシンによる大脳皮質神経発生毒性」は、既に発表済みである周産期ダイオキシンばく露による認知・行動異常の発症メカニズムとして非常に注目できる。最終年度は、このダイオキシンが大脳皮質の発生に及ぼす影響の解明に注力したい。また、intellicageを用いた新たなマウス認知行動試験の開発に関しては、当初の計画に加え、既に確立している試験プロトコルについて、遺伝子改変マウスを用いた認知行動試験法としての妥当性検証や、薬剤投与による薬理効果の検証などを行う。
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