2011 Fiscal Year Annual Research Report
FRETイメージングによるキナーゼ活性の網羅的計測と細胞癌化との比較統計解析
Project/Area Number |
11J06027
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小松 直貴 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | FRETバイオセンサー / 細胞増殖 / 抗癌剤 / Ras-ERK / イメージング |
Research Abstract |
平成23年度は1.FRETバイオセンサーを発現するがん細胞株の樹立、2.キナーゼ活性および細胞増殖能を同時計測する高効率FRETイメージング系の樹立、3.がん細胞にRas-ERK経路阻害剤で摂動を加えた際のキナーゼ活性および細胞増殖能の計測を行った。まずセリン・スレオニンキナーゼの一つであるERKの分子活性をモニターするFRETバイオセンサー、EKAREVnls (Komatsu N, et al Mol Biol. Cell (2011).)を安定発現するがん細胞株を樹立した。用いたがん細胞株はRas-ERK経路に変異を有するものを特に用いた。 続いてRas-ERK経路阻害剤が、がん細胞の分子活性および細胞増殖能に与える影響を効率よく解析するために、96穴プレートと顕微鏡を用いた測定系を構築した。樹立した細胞株および計測系を用いて、各種がん細胞にRas-ERK経路阻害剤を加えた際のERK活性の変化および細胞増殖能の計測を行った。その結果、MEK阻害剤がBRaf変異細胞に対しては段階的に細胞増殖を抑制するのに対し、KRas変異細胞に対しては2相性の抑制効果を示すことを見いだした。一方、ERK活性についてはKRas変異細胞とBRaf変異細胞のどちらもMEK阻害剤に対して段階的な応答を示した。このことから、BRaf変異細胞はERK経路によって主に細胞増殖が制御されているのに対し、KRas変異細胞ではERK経路以外の別シグナリング経路も細胞増殖の制御に関与していることが考えられた。 次にPI3K阻害剤とMEK阻害剤を併用することでKRas変異細胞特有の2相性の細胞増殖が段階的な応答に変化することを見いだした。細胞増殖が2相性応答を示す条件および段階的応答を示す条件において、ERK活性および細胞増殖率を定量・比較したところ、後者の条件では細胞増殖率を100%にするERK活性のレンジが狭まっていることを見いだした。以上の結果をふまえると、KRas変異細胞はERK経路およびPI3K経路の両方によって細胞増殖を制御しており、外的撹乱によるERK活性の変動に対して頑強性を与えていること、その一方でBRaf変異細胞はもっぱらERK経路によって細胞増殖を制御するためにERK活性の変動に対して脆弱であることが示唆される。また、本結果はERK経路阻害剤単独では増殖抑制効果が低かったKRas変異細胞に対してもPI3K経路阻害剤を併用することにより、相乗的に増殖を抑制する抗がん剤戦略を提案するものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的である細胞増殖と分子活性との関連づけを達成するために、種々の抗癌剤が癌細胞に与える影響を多次元に解析する計測系を樹立した。本計測系は抗癌剤の高効率スクリーニング系としても非常に有望である。さらにこれを用いることにより、ERK経路阻害剤の細胞間で異なる感受性、およびその制御機構の一端を明らかにした。以上の点により期待通り研究が進展したと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、 1.KRas変異細胞特有の2相性の細胞増殖に寄与するPI3K経路下流分子の探索(薬剤スクリーニング) 2.BRaf変異導入による細胞増殖様式の変化の解析 3.ERK活性と細胞増殖を関連づける数理モデルの構築 4.PI3K経路分子の可視化および定量解析 を実施する予定である。
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