2012 Fiscal Year Annual Research Report
還元型系外惑星大気における有機物エアロゾルの実験的研究
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11J06087
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
洪 鵬 東京大学, 大学院・新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 惑星大気 / 光化学 / 系外惑星 / 海底熱水 / タイタン / メタン / アルゴン同位体比 / 脱ガス史 |
Research Abstract |
惑星形成論によると地球型系外惑星は、非常に大量の水を持つ可能性が高いと予想されており、そのような「海惑星」が今後発見される確率が高い。このような海惑星において、海底熱水噴出孔から還元的なガスが脱ガスすることに注目し、海惑星の大気は還元的になりやすいという仮説を立てた。実際、地球ではマグマ中の熱力学条件の違いによって、海底熱水噴出孔からの脱ガス組成は、メタンや水素に富んだ還元的な組成であることが観測されている。この仮説を検証するため、まず熱水噴出孔での熱力学平衡計算を行い、水圧の変化に対する脱ガス組成の変化を求めた。その結果、比較的酸化的な岩石組成であっても、深い海があれば、海底熱水噴出孔からは極めて還元的な組成のガスが脱ガスすることがわかった。次にそのような還元的なガスが海底から噴出された時の、大気組成に与えられる変化を、光化学モデルを構築して計算した。計算の結果、海惑星が現在の地球と同程度かそれ以上の熱水噴出活動を行えば、メタンに富む還元的な大気組成を持つことがわかった。この結果は、海水量と大気組成に相関関係が存在することを示唆するとともに、海惑星では有機物エアロゾルの生成が起こりやすいことを示している。 一方で、土星の衛星タイタンは分厚い還元的な大気を持つ、太陽系内で唯一の惑星であり、原始地球や系外惑星と類似している。しかしその大気がいつから存在していたのかは不明であった。そこで大気中の微量元素であるアルゴンの同位体比に着目して、タイタン大気の脱ガス史に制約を与えた。アルゴン脱ガスモデルによって、タイタンはその初期に表層が大規模に融解・脱ガスした可能性が高いことがわかった。このことは、タイタンの形成時間が、一般的な円盤集積モデルで予想されるよりも短く、またタイタン内部もこれまで考えられていたような未分化状態ではなく、分化している可能性が高いことを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
有機物エアロゾル生成実験に必要な実験系を組み立て、実験を行い、C/O比を関数とする幅広い大気組成におけるエアロゾルの生成率と複素屈折率を測定した。したがって、実験に関しては概ね目標とするデータを取得することに成功したと言える。一方で、光化学モデルも完成し、現在はコロラド大学の放射伝達・微物理モデルとの結合作業を行っている。 このように、実験に関しては交付申請書に記載した程度の進展が見られたが、一方で光化学・放射伝達モデルの結合は今年度中には達成できなかった。これらを総合して判断して、研究の進展度を(3)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
現在行っている、光化学モデルと放射伝達・微物理モデルの結合作業を完了させ、これまで独立に議論されてきた、大気の温度と大気組成を自己矛盾無く解けるようにする。完成した光化学・放射伝達・微物理モデルを現在のタイタン大気に適用し、モデルの最適化を行う。そして原始地球大気、系外惑星大気への応用計算を行う。一方で光化学モデルと、実験で取得されたエアロゾル生成率を比較することで、エアロゾル生成に寄与する素反応の制約を目指す。この際、ベンゼン等を含む、より高分子の炭化水素まで計算できる光化学モデルが必要だが、反応系の強化は既に完了している。
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