Research Abstract |
1.鹿児島県南部,石垣島,竹富島の計15地点において間隙性貝形虫類の調査を行った.この調査の結果,10属31種の間隙性貝形虫類が発見され,新たに12未記載種を確認した. 2.静岡県三保真崎海岸の間隙環境より見つかったSemicytherura属貝形虫の一新種をミュンヘン大学の山田晋之介博士と共に記載した.本種は,間隙性種としての形態的特徴を持ち,また,化石記録として更新統古谷層から産出が見られた.これらのことより,化石として間隙性分類群が産出することが実際に明らかとなった.そして,砂中間隙環境という堆積環境を間隙性貝形虫類の化石記録から導くことへの可能性が示された. 3.生きた化石分類群であるポリコープ科貝形虫類の種分化に関わる形質(交尾器や上唇)の機能と起源を,交尾行動観察,走査型電子顕微鏡・光学顕微鏡を用いた形態観察,核遺伝子18Sを用いた分子系統解析によって調べた,その結果,(1)雄の射精管形状が雌雄間の進化的軍拡競走によって進化したこと,(2)交尾栓が雄の尾叉にある突起から形成されること,(3)雄の上唇の形態的多様性が雌による配偶者選択の結果として生じたこと,が明らかとなった.以上のようにParapolycope属では,性選択が主な原動力となって,種分化に関わる形質の進化が起こっていることが示された. 4.Parapolycope soiralisと形態的に非常に類似した3つの形態型A,B,Cを対象として,形態的な保守性と新規性に関する議論を行った.形態比較と核遺伝子(ITS1,2)を用いた分子系統解析の結果から,本属の種分化の最初期には,背甲や交尾器をはじめとする付属肢の形態はほとんど変わらない一方,生殖隔離に関連する雄の上唇形態が変化することを示した. 以上の結果は,研究代表者の学位論文としてまとめられると共に,国際学術雑誌,国際・国内学会で公表された.
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Strategy for Future Research Activity |
日本周辺における間隙性貝形虫類の分布調査を継続し,種多様性の評価を行う.3億5千万年に渡るポリコープ科貝形虫類の生息環境を,文献および野外調査によって得られる化石情報や堆積構造から推測する.同時に,世界的分布や地質時代を通した生息環境の変化を読み取ることで,本科貝形虫類の生態的な歴史を明らかにする.また,背甲の形態的特徴を現生間隙性種と比較し,「生きた化石」についての知見を集積する.これによって,砂中間隙環境という堆積環境を化石記録から導く可能性を提示し,これらの結果を古生物学や層序学にフィードバックする.
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