Research Abstract |
雄の交尾器が単純な射精管のみから成るという特徴を持つParapolycope属貝形虫について,2新種,すなわちP.psittacinaとP.uncataを記載するとともに,それらの種分類に有用な形質を検討した.特に,上唇の形態は性的二型を呈すことから,交尾器と同様に生殖隔離と関わる機能を持つ可能性が示され,種分類に有用であることが示された.間隙性貝形虫類Parapolycope spiralisの一連の交尾行動を観察した.その結果,雄が第一触角と第二触角で雌を捕握し,交尾姿勢をとった後に以下の行動が認められた.(1)雄は体後部を前後に動かし始め,射精管を雌の生殖孔に入れる.(2)約15分後,交尾姿勢を維持したままの状態で雄は射精管を引き抜く,(3)約10分かけて雄の右側の尾叉にある突起が前方に向かって突き出る.(4)雄は体後部を前後に動かし,その突起を雌の生殖孔に入れる.(5)約10分後,雄は突起を引き抜き交尾姿勢を解く.この実験に用いた7ペア全ての雌個体において,交尾前には見られなかった棒状の交尾栓が確認された.雄が射精管を挿入している段階で交尾を中断させたペアでは,雌に交尾栓が確認されなかった.すなわち,交尾栓形成には射精の後に雌生殖孔へ挿入される雄の尾叉にある突起が関与していると考えられる.SEMを用いた詳細な形態観察で,未交尾の成体雄の尾叉の突起には薄い膜状の構造が確認できた.一方で,交尾後の雄個体では確認できなかった。これらの結果から,P.spiralisにみられる交尾栓は,雄の尾叉の突起にある薄い膜状構造によって形成されることがわかった.雄は未交尾の雌と交尾し,交尾栓を形成することで最も高い適応的利益を得ることができる.一方で,この交尾栓が形成された雌は他の雄個体と再交尾することができない.そのため,雌にとって,交尾前の配偶者選択が重要となることが示された.これらの結果から,「生きた化石」間隙性貝形虫類における形態形質の進化には性選択が大きくかかわっていることが示唆された。
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