2011 Fiscal Year Annual Research Report
細胞シミュレーションによるTNF及びTRAILシグナル伝達の細胞死誘導機構の解明
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11J06222
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
林 謙太郎 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 癌細胞 / シグナル伝達 / シミュレーションモデル / TRAIL / アポトーシス |
Research Abstract |
悪性腫瘍である癌細胞を細胞死へと誘導する事は、現在の分子標的薬の開発にむけた大きな課題である。 その対象として、免疫機構で大きな役割を果たすサイトカインであるTNF(Tumor-Necrosis-Factor)やTRAIL(TNF-Related-Apoptosis-Inducing-Ligand)は、非常に着目されている。これらのサイトカインは、癌細胞に対して細胞増殖と細胞死のシグナル伝達を誘導する事が知られているが、どのようにコントロールされているかはまだ知られていない。本研究では、TRAILをリガンドとした癌細胞内の細胞増殖と細胞死のシグナルのスイッチング機構について研究を行った。対象の癌細胞としてヒト浸潤性線維芽肉腫細胞株であるHT1080を用い、野生型およびいくつかの分子(FADD、RIP1、TRAF2およびカスパーゼ-8)のノックダウン条件で、細胞生存に関与する分子(1κB、JNK、p38)とアポトーシスに関与する分子(カスパーゼ-8、カスパーゼ-3)の経時的活性化プロファイルを、摂動応答理論を応用したシミュレーションモデルを作成し、解析を行った。その結果、1.p38とJNKを活性化するFADDとは独立した経路、2.RIPIとp38間のクロストーク、3.p62とJNK間のクロストーク、および4.JNK上流の活性化プロセスの存在が予測された。特に、その後のシミュレーションから、p62/sequestosome-1分岐点で新規分子を標的とすることで、シグナル伝達フラックスの再分配を介して細胞死が最適化されることが示唆された。さらに本手法は、物理的法則に基づいた新規手法であるため、TRAILに限らずどのようなシグナル伝達経路においても汎用的に用いる事で、様々な現象の理解にも繋がる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回、研究課題に記したTRAILに関する論文が一報Scientific Reports誌に掲載され、その論文のなかでは、癌細胞において人為的に細胞死を誘導するためのターゲットを予測した。こちらの研究成果は、様々なメディアに取り上げられ、注目を集めた。
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Strategy for Future Research Activity |
今回、TRAILが誘導するシグナル伝達を細胞増殖から細胞死へと誘導するためのターゲット分子の存在を予測したが、こちらの予測した結果をもとにその検証実験を行っていく予定である。また、TRAILに限らず同じファミリーに属するTNFのシグナル伝達においてもシミュレーションモデルを使ったシグナル伝達の研究を行っていく予定である。
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