2011 Fiscal Year Annual Research Report
西アジア領域国家形成過程における地域社会の変容 : 構造と構成原理の考古学的研究
Project/Area Number |
11J06269
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
有松 唯 広島大学, 大学院・文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 葬送儀礼 / 物質文化 / イラン・イスラム共和国 / 国家形成 / アケメネス朝ペルシャ |
Research Abstract |
本年度は5つの研究目的のうち、(2)「特徴的な物質文化の社会的機能の精査」および(3)「地域社会構造化『装置』の推定」の研究をすすめ、成果発表を行った。また他の研究目的達成に必要な基礎データの収集を国内外で実施した。具体的には、平成23年度研究計画(1)「広島大学所蔵、イラン北東部検出考古資料の調査」、同(2)「テヘラーン国立博物館(イラン・イスラム共和国)所蔵、イラン北東部検出考古資料の調査」を完了した。 研究目的(2)および(3)を達成する中で、具体的には本研究の主要対象であるイラン北部鉄器時代について、特徴的に発達する葬送儀礼関連の物質文化の地域社会における機能とその通時的変化を指摘した。当地の考古学ではこの物質文化の在り方を自明のこととして、葬送関連のデータにのみ基づいた研究が盲目的に実施されてきたのである。またその変化を鉄器時代における地域社会の構造的変化(権力基盤の変質)の表出として解釈し、同時期における国家形成事象の要点である可能性を論じた。当地の考古学、またアケメネス朝ペルシャという西アジアを代表する領域国家の研究に対して、新たな視点を提示できたと考える。 成果発表に際しては、自身の専門領域(西アジア考古学)外の研究者を対象とした媒体において発表の機会が得られたことは、重要だと考える。自身の専門分野の周知に寄与し得たと同時に、意図しえなかった意見や反応が得られ、自身の今後の活動にとっても大いに有益だった。下記「13.研究発表」のうち、3分の1はそうした活動の成果である。また広島大学が1970年代に実施した調査成果の一端を発表できた。40年間近く詳細が公表されなかった当資料の重要性は、現在の研究状況に照らしても有効である。その点を広島大学主体の媒体で発表できた。本研究計画を通しての活動目的の達成、そして最終年度に予定している報告書出版に向けても、前進できたと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
外国語での成果発表が遅れている点は憂慮すべきと自認している。また計画当初に位置づけていた「示準遺跡のデータ整理と編年構築」がフランス側の都合により本年度実施できなかったため、他の計画遂行も変更を余儀なくされた。一方で本研究計画全体の核となる広島大学関連のイラン北東部検出考古資料については、基礎的研究が予定以上に達成できた。この点は今後の計画遂行に寄与すると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、最終年度に予定している広島大学学術調査の報告書出版にむけて、本年度取得した関連データの編集を進める。並行して、同資料を基にした研究成果を、欧米学術雑誌を中心に投稿する。研究目的(4)と(5)を中心とした内容となる予定である。また双方を充実させるため、2012年夏にイラン北東部に出向いての資料調査と実地見学を予定している。当地担当者の内諾は得ており、正式許可取得に向け手続きを開始する。一方研究目的(1)を達成するために、イラン北東部の標準遺跡であるトゥラン・テペ遺跡関連データ研究の準備を本格化する。フランス、ルネ・ギヌヴェ研究所の担当者からは2013年3月からの一年間(研究計画最終年度)、当研究所における研究活動の正式許可を取得した。実現のため、ビザ取得等の事務手続きと予備的研究を2012年1月までに完了する。
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