2011 Fiscal Year Annual Research Report
インスリンの時間変動による肝細胞の糖放出制御機構の解明:実験と数理モデルでの解析
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11J06435
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野口 怜 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | インスリン / 糖代謝 / 時間情報コード / 時間パターン / システム生物学 / シミュレーション / 微分方程式モデル / メタボローム |
Research Abstract |
本研究の大目的は「インスリンの時間変動による肝細胞の糖放出制御機構の解明」である。この命題に取り組むために、まずはインスリンの一定刺激に対する糖の放出量(細胞外グルコース濃度)ならびに細胞内代謝物の動的な挙動について調べることとした。前年度において培養肝臓細胞(Fao細胞)を用いて、インスリン刺激時の糖の放出を観測するための細胞刺激実験系・測定系を確立し、糖の放出がインスリン刺激後数十分以内に迅速に抑制されることを明らかにした。続いて本年度においては、メタボローム解析により、インスリン一定刺激に対する細胞内の糖代謝関連代謝物の動的挙動を調べた。その結果、糖代謝をつかさどる、解糖系、糖新生経路、グリコーゲン合成経路において、インスリン依存的な応答が観測され、これらの3つの経路すべてがインスリンに応答することで糖の放出が抑制されることが示唆された。これに加えて、同じインスリンの一定刺激であっても、各経路はそれぞれ異なる時間的な変動のパターン(時間パターン)を示すことが明らかとなった。このことは、インスリンの時間パターンの伝わり方が各経路において異なることを示唆しており、インスリンの時間パターンによって選択的に制御されうる可能性があることを見出した。これは、先述した当初の大目的に大きく近づく非常に重要な示唆である。現在のところ、このメカニズムについて詳細に解析するために実験データをもとに数理モデルの構築に取り組んでいる段階である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に実施したメタボローム解析によって、インスリン刺激時の細胞内の代謝物の動態がわかり、当初掲げていた「インスリン刺激による糖の放出制御機構の解明」という、大きなゴールに対して着実に近づいてている。また、経路によって応答の時間パターンが異なることがわかったことは、インスリンの時間パターンによる経路の選択的な制御が存在する可能性を示唆する非常に重要な新規知見である。現在構築中の数理モデルが完成すれば、モデル解析を行うことでこの機構のメカニズムの解明やこの機構が持つ生理学的意義の理解に一層近づくと考えられ、非常に重要な局面を迎えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後については、ゴールとして次の2点を掲げている。第一に、当初の目的にあるように「インスリン刺激による糖の放出制御機構の解明」である。これに応えるために、まずは現在取り組み始めた数理モデルの構築を引き続き行う必要がある。構築したモデルを用いて、経路遮断などのシミュレーションを行うことで、インスリンがどのように糖代謝経路を制御しているかを明らかにする。また、第二の目的として、本年度の研究により示唆された「インスリン刺激による糖代謝経路の選択的制御」について調べることが挙げられる。構築したモデルを用いて、パラメータ感受性解析や、様々な時間パターンを持つインスリン刺激を与えるシミュレーションを行い、糖代謝経路がどのようにして選択的な制御をされるのか明らかにする予定である。考えられる問題点としては、妥当なモデルが構築できるかどうかである。もし現在取り組んでいる枠組みでうまくいかない場合には、新規経路を仮定したり、新たな実験データを学習させたりすることで、解決したいと考えている。
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Research Products
(1 results)