2011 Fiscal Year Annual Research Report
多様な神経細胞の生み分けに関する転写因子カスケードの解明
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11J06520
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
瀬戸 裕介 早稲田大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 神経発生 / 転写因子 |
Research Abstract |
小脳の抑制性神経細胞を生み出す神経幹細胞のなかにはbHLH型転写因子Olig2を発現するものとしていないものが存在することが当該年度以前の研究で分かっており、Olig2陽性のものはのちにプルキンエ細胞へと特異的に分化することが分かっていた。本年度の研究においては、このOlig2遺伝子のノックアウトマウスの解析と、あらたにOlig2と相補的に発現する転写因子を明らかにしたのでその機能解析を行った。 それらの結果から、小脳の神経幹細胞も、大脳と同じように、発生の時間経過が進むにつれて性質が変化し、異なる神経細胞を生み出すようになるという概念的に新たな事実が明らかになった。さらに、神経幹細胞の性質の変化速度がOlig2と上記のOlig2と相補的に発現する転写因子によって制御されていることが明らかになった。 本年度の研究結果の中で、神経細胞の運命決定について知るうえで、特に重要だと思われるものはOlig2遺伝子の発現が転写因子Ptflaに依存していることを発見した点である。転写因子Ptflaは小脳の抑制性神経細胞を生み出す神経幹細胞すべてで発現している転写因子だが、なぜか、プルキンエ細胞を生み出す神経幹細胞でのみ、特異的にPtflaはOlig2遺伝子の発現を活性化しており、それ以外の神経幹細胞では活性化させていないことが分かった。このことはOlig2遺伝子座が、プルキンエ細胞を生み出す神経幹細胞でのみなんらかのエピジェネティックな就職を受けていることが期待される。中枢神経系においてOlig2の発現を制御するゲノム上の領域については、いくつかの先行研究が存在するため、それらを参考に研究していくことで神経幹細胞の質的な変化についてより深い議論ができる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度では、まだOlig2の具体的な下流遺伝子の同定には至っていないが、ノックアウトマウスの解析から、その生理的な機能を明らかにしたほか、相対する機能を持つ転写因子の存在を明らかにしたため、この評価にした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、当初の計画通り、Olig2の下流遺伝子の同定とその発現パターンの解析を行うほか、タイムラプスイメージングの計を確立し、それらの発現の時系列を明らかにしていく予定である。そのほかに、新たな課題としてOlig2の発現がいったいどのようにして制御されているのか、幹細胞の性質の時間変化の速度はどのようにしてOlig2によって制御されているのかを解析していく。これらについては、Olig2の下流遺伝子の小脳での過剰発現実験を行うほか、時期特異的なChIP-Seqを行うなどして、Olig2遺伝子座の修飾状態の変化を調べるなどして対応していく予定である。
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