Research Abstract |
自然界には何万もの生理活性テルペノイドが存在する。これらの生産活性がいかにして生まれたかを知ること, そして多様なテルペン骨格の合成活性を開発することが, 本研究の目的である。テルペン群のすべての分子骨格は, イソプレニル二リン酸の環化によって一段階で形成される。その生合成を行うテルペン環化酵素は, 基質から二リン酸を脱離させ, そこで生じるカルボカチオンに分子内のどの二重結合を求電子攻撃させるかを規定する「反応シャペロン」の役割を担う。この特異な機構から, 少ないアミノ酸変異によっても, 大きくその生産物の構造を変化し得ることが予言されてきた。申請者はこれまで, テルペン酵素の細胞活性を, 共通するイソプレニル二リン酸を基質とするカロテノイド色素経路の生産量低下によって可視化する手法を開発してきた。本研究では, この手法を用いて, ひとつのテルペン酵素から多様なテルペン活性をつくり出すことを目指した。 採用期間の初年度では, スクリーニング手法を完成させ, 論文として発表した。その後, 二, 三年次においては本手法を用いて, バジル由来ゲラニオール合成酵素, タバコ由来5-エピアリストロケン合成酵素およびマツ由来ビサボレン合成酵素を対象として, 数世代の進化工学を行った。そこで得られた変異体から, 生産物特異性を変更させるものを単離した。その変異体解析によって, テルペンの反応特異性を改変し得るアミノ酸部位を複数特定することができた。これらの結果は, テルペン合成酵素が数アミノ酸変異による小さな構造変化によって反応特異性が大きく変わり得ることを, そしてその変化が大きな活性低下を伴うことなく起こり得ることを示すものである。
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