2011 Fiscal Year Annual Research Report
小胞体膜トランスロコンにおけるタンパク質膜透過の動態
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11J06629
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
藤田 英伸 兵庫県立大学, 大学院・生命理学研究科, 特別研究員DC2
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Keywords | 小胞体膜トランスロコン / 膜タンパク質 / ポリペプチド鎖 / 正電荷アミノ酸 / ブラウニアンモーション / 糖鎖付加 / リボソーム / ラチェット |
Research Abstract |
細胞には各種オルガネラ膜が存在し,それぞれ特定のタンパク質が局在化して,オルガネラ固有の機能を発揮している。小胞体は真核細胞内の分泌系オルガネラに存在するタンパク質の合成,膜透過および膜組み込みを担っている。これらの多彩な機能は,小胞体のトランスロコンとよばれるタンパク質膜透過装置によって実現されている。またこのトランスロコンを介した膜蛋白質の構造形成に正荷電アミノ酸残基が寄与することが報告されてきた。 私はこれまでに正電荷が膜透過抑制作用を持つことを発見してきた。さらにこの作用は内腔側の糖鎖付加によって抑制され,正電荷部分も膜透過することを見出した。現在のところ,正電荷による透過抑制,ポリペプチド鎖の正逆両方向へのゆらぎ,及び糖鎖による方向性付与のバランスによって,ポリペプチド鎖の動きが決まると考えている。 23年度はこれまでの研究成果をもとに,真核細胞小胞体膜におけるタンパク質膜透過機構について,正電荷の作用と順逆両方向への駆動機構に絞ってさらに展開した。 真核細胞小胞体での膜透過は合成と共役したかたちで起こる。すなわち,合成によるポリペプチド鎖の伸長が駆動力となると考えられてきた。しかし,正電荷による膜透過抑制の研究において,合成完了後に起こる正逆両方向へのポリペプチド鎖の動きが見られ,そのトランスロコンを介した動きは様々な駆動様式が関わる事が示唆された。そこで正電荷の抵抗を克服して膜透過するモデルを構築し,それに基づいて系統的モデルタンパク質のふるまいを解析した。それにより膜透過が完了し内腔に存在する上流配列によって膜透過挙動が異なることを明らかにした。その順方向への駆動には二価イオンを必要とする細胞質側因子の存在も示唆された。さらに正電荷によりポリペプチド鎖が逆方向へも動きうることが確認できた。これは真核細胞小胞体の膜透過において新たな概念を提唱するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
正電荷単独による透過特性は論文発表することができ,また膜透過に対するコレステロール効果も2012年4月に論文発表できた。膜透過駆動に関する様々なデータが得られているが,リボソーム効果に関する明確なデータが得られていない。早急に実験を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
リボソーム効果を明らかにするために,直ちに大腸菌,小麦胚芽,昆虫,ウサギ等それぞれ異なる種のタンパク質合成系で膜透過を測定する。また、リボソームと膜(トランスロコン)間の作用を環境選択的化学反応により精査し、膜透過への関与を調べる。 これらと膜透過駆動に関わるデータをまとめ,前方への一方向的な輸送に必要な条件を考察し,それに基づいてモデルタンパク質の膜透過駆動様式を発表する。このモデルにはブラウン運動,糖鎖ラチェット作用も関わっておるため,物理科学分野の「ゆらぎ」へのモデル提案も努力目標とする。 これらを基盤として,それぞれの作用の分子レベルの機構について実験を進める。まずは一分子観察系の設定。蛍光アミノ酸導入や,膜透過実験条件を整備する。蛍光分光装置を用いてアンサンブル系での測定を試みる。同時に,全反射顕微鏡に関する実験技法の習得に努める。最終的に一分子観察を実行する。
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