Research Abstract |
本年度は,音楽聴取によってもたらされる強烈な感情反応について,調査および実験によって検討した。調査では,現在までに強烈な感情反応として研究されてきた鳥肌反応(鳥肌が立つ,ぞくぞくする感覚)以外にどのような反応があるか,強烈な感情反応の生起要因とされてきた音楽の音響に加えて歌詞が影響を及ぼすかについて検討した。実験では,参加者に音楽を聴取させて強烈な感情を喚起させたときの心理生理状態を測定し検討した。 調査は質問紙により大学の授業で実施した。先行研究から選出した音楽聴取による強烈な感情反応のうち生起率が高い反応を質問するとともに,それらの反応と音楽の音響および歌詞の関連を探った。その結果,強烈な感情反応には鳥肌反応と別種の反応として涙反応(涙ぐむ,胸が締め付けられる感覚)があると示された。また,鳥肌反応は音楽の音響と強く関連するのに対して,涙反応は音楽における歌詞と強く関連することが明らかになった。これらは,強烈な感情を鳥肌反応と音響のみから追究してきた従来の研究に対して,新しい視点を提供するものと考えられる。 実験に関しては,大学の実験室で実施した。参加者は,実験室で音楽を聴取し,鳥肌反応もしくは涙反応が生じたときにボタンを押すことにより報告した。さらに,音楽聴取中の時間に沿った快感情の変化と心拍数,呼吸数,皮膚電位といった生理反応の変化を10Hz単位で計測した。同一曲を聴いたときに鳥肌反応および涙反応が生起した参加者と,生起しなかった参加者を比較対象とした。その結果,鳥肌反応の生起時には,快感情が上昇するとともに皮膚電位が増加し交感神経の活性化された覚醒状態がもたらされていた。涙反応の生起時には,快感情が上昇するとともに呼吸数が減少し副交感神経の活性化された沈静状態がもたらされていた。これらから,音楽聴取による鳥肌反応と涙反応は,異なる自律神経の働きを伴った快感情をもたらすと示唆され,強烈な感情についての新たな知見が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに,心理生理実験の実施およびデータ分析を行うことができた。当初予定していたように心理生理実験が実施できたとともに,音楽聴取による強烈な感情に伴った心理生理反応を抽出できたことから,本研究はおおむね予定通りに進行していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では,音楽聴取時に強烈な感情を生起させる音響や歌詞を心理音響分析と計量言語分析を用いて検討する。さらに,強烈な感情を生起させやすい人がどのような性格特性を持つかを調査により検討する。また,23年度の研究結果から,音楽聴取による強烈な感情に鳥肌反応と涙反応があることが明らかになった。そこで,24年度は当初の研究計画を変更し,上記の分析と調査に加えて,鳥肌反応と涙反応が同時に生じる場合について心理生理実験を用いて検討する。
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