2011 Fiscal Year Annual Research Report
新奇な基底状態をとる強相関電子系の光誘起ダイナミクス
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11J07023
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
能上 絢香 早稲田大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 強相関電子系 / 光誘起ダイナミクス |
Research Abstract |
(1)研究目的 強相関電子系における光誘起ダイナミクスの研究では、電荷、スピン、軌道、格子の自由度と光誘起ダイナミクスの相関が注目されている。本研究で用いたAV_<10>O_<15>(A=Ba,Sr)は、A=BaではT_c=123Kで構造相転移があり、このときVが三量体を形成し、軌道整列の存在が示唆されている。一方A=Srでは構造相転移がない。よって温度による構造相転移が光誘起ダイナミクスに及ぼす影響を調べるには適した物質である。これまでの研究より、A=Baは10Kにおいて、光照射後、軌道整列が壊れ、続いて三量体が壊れる光誘起相転移が起こることがわかっている。そこで、本研究ではA=Srの光誘起ダイナミクスを観測し、A=Baとの違いを解明することを目的とした。 (2)研究方法 単結晶を用いてフェムト秒反射型ポンププローブ分光測定を行った。光源はTi:sapphireレーザー(パルス幅:約130fs,エネルギー:1.56eV)で、プローブ光の反射率変化を観測した。プローブ光は循環水に集光して波長変換し、0.9eV-2.5eVで測定できる。 (3)研究成果 10KにおけるA=Srの光誘起ダイナミクスはA=Baと異なるものであった。反射率変化の時間依存性を見ると、A=Baでは数十psの時間スケールではほとんど時間変化しないが、A=Srでは緩和と振動が現れ、振動の周期はプローブ光の波長に依存している。A=Srの場合の時間依存性を説明するために、光誘起状態の空間分布モデルを考えた。このモデルは、光照射直後、試料表面に光誘起状態が現れ、その後、光誘起状態が音速で試料の奥行き方向に進んでいくというものである。このモデルで計算した結果は実験結果とよく一致した。つまり、A=Baでは三量体相と三量体のない相のエネルギー差があるため光誘起相は安定するが、A=Srでは構造相転移がなく相は連続的であるため、光誘起状態は音速で進行していく。これより温度による構造相転移の存在は光誘起ダイナミクスに重要な影響を与えることを明らかにできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画していた研究は行うことができ、その内容についての学会発表も行えたから。
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Strategy for Future Research Activity |
申請書に記した通り、マルチフェロイック物質の光誘起ダイナミクスの研究を行う予定である。試料の状態が良くないものもあるため、試料作製から行う可能性もある。また、これまでの研究で扱っていたBaV_<10>O_<15>に関して、酸素量の違いにより異なる性質を示すことが現在明らかになりつつある。したがって、時間的に可能であったら、酸素量の異なるBaV_<10>O_<15>の光誘起ダイナミクスの研究を行い、軌道・格子の自由度と光誘起ダイナミクスの関係を系統的に明らかにしたいと考えている。
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