2011 Fiscal Year Annual Research Report
セルロースバイオマスの効率的エネルギー変換に貢献するイオン液体の設計
Project/Area Number |
11J07127
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
阿部 充 東京農工大学, 大学院・工学府, 特別研究員(DC1) (50734951)
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Keywords | セルロース / 植物バイオマス / 溶解 / オニウム塩 / 水酸化物 / 非加熱 / エネルギー / 含水系 |
Research Abstract |
概要 含水率40 wt%のtetrabutylphosphoniumhydroxideが、非加熱下、5分の撹拌で終濃度20 wt%のセルロースを溶解できることを明らかとした。 背景及び意義 我々は、食料と競合しない再生可能エネルギー源であるセルロースバイオマスを利用した、エネルギー変換システムの構築を目指し、研究を進めている。しかし、セルロースは一般的な溶媒に溶けにくく、効率的なエネルギー変換が難しい。近年、セルロースを室温下で溶解できる新規溶媒として、イオン液体が注目されている。しかしながら、既存のイオン液体は、少量の水の添加によってセルロース溶解能が著しく低下するという欠点を有していた。植物バイオマスは多量の水を含んでいるため、バイオマスの溶解に際して含水量の増大は避けられない。また、抽出したセルロースの効率的なエネルギー変換のためにはセルロースの加水分解が必要であり、系中に水の存在が不可欠となる。そこで、含水状態で、エネルギーコストの少ない非加熱下でのセルロース溶解が求められる。 結果と考察 tetra-butylphosphonium hydroxide(TBPH)は含水率20-60 wt%という広い濃度範囲でセルロースを溶解し、特に含水率30-50wt%の範囲で多量のセルロースを迅速に溶解した。 NMR測定の結果、TBPHのアニオンとセルロース分子鎖との水素結合により溶媒和している可能性が示唆された。また、赤外分光測定から、TBPHはセルロースを誘導体化しないことが示された。また、X線回折測定より、溶解後のセルロースは結晶構造が崩れており、分子レベルでの分散が生じたことが示された。さらに、セルロースは分子量が変化していなかった。 既存のセルロース溶媒は加熱を伴うものが多く、溶媒の爆発性や小さい溶解度などの問題もあり、セルロース系バイオマスのエネルギー変換に用いることは困難であった。TBPHは非加熱下、含水状態で多量のセルロースを短時間で溶解できることから、植物バイオマスの効率的なエネルギー変換に貢献すると期待される
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
セルロースの溶媒として注目を集めているイオン液体は、含水によってセルロース溶解能が著しく減衰するという致命的な欠点を有していた。水を多量に含む植物バイオマスを乾燥させるためには多大なエネルギーコストを要する。含水状態かつ非加熱下でセルロースを溶解する溶媒の開発は、植物バイオマスの効率的なエネルギー変換に大きく貢献するものである。さらに、イオン液体は純粋な塩であるため、溶解後のプロセスである加水分解が進行しない。また、グルコースの酸化電極を構築する際にも水の添加が有効であることが分かってきている。これらの点からも、含水状態で利用できる溶媒の開発意義は大きい。
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Strategy for Future Research Activity |
開発した溶媒を用いて、植物バイオマスからの多糖類の抽出を試みる。植物バイオマスは多成分からなる混合物であるため、セルロース溶解能と植物バイオマスの溶解能は必ずしも比例しない。そこで、植物バイオマスからの多糖類成分(セルロース等)の抽出能力を評価し、最適化を行う。また、含水状態の植物バイオマスの溶解性も評価する。 セルロース溶解の次のステップにあたる、セルロースの加水分解についても検討する。イオン液体やTBPHを溶媒とし、種々の加水分解触媒の利用を試みる。酵素の場合は活性の低下が予想されるため、化学修飾や高分子への担持を検討する。酸触媒の場合は、触媒活性を維持するために求められるイオン液体構造を探索すると共に、触媒の単離やリサイクル性について検討する。
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