2012 Fiscal Year Annual Research Report
セルロースバイオマスの効率的エネルギー変換に貢献するイオン液体の設計
Project/Area Number |
11J07127
|
Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
阿部 充 東京農工大学, 大学院・工学府, 特別研究員(DC1) (50734951)
|
Keywords | 植物バイオマス / 多糖類抽出 / 非加熱 / 含水系 / セルロース / エネルギー |
Research Abstract |
概要 植物バイオマスから非加熱でセルロースなどの有用多糖類を抽出した。セルロースやヘミセルロースの選択的な抽出及び回収も容易であり、植物バイオマスの乾燥も不要であった。 背景 我々は、非加熱かつ含水条件下でセルロースを溶解できる溶媒としてtetra-n-butylphosphoniu mhydroxide(TBPH)を提案した。さらなる展開として、植物バイオマスの溶解性を評価した。含水状態の植物の溶解を試みると共に、抽出した多糖類成分の分離・回収プロセスを構築した。 実験 TBPH水溶液を濃縮し、含水率を調整した。広葉樹であるポプラの粉末(36-200 mesh)は、森林総合研究所より提供されたものを真空下で乾燥して用いた。TBPH溶液にポプラ粉末を添加し、25℃において所定の時間撹拌した。不溶部分をろ別し、貧溶媒を添加して溶解成分を析出させ、乾燥重量を測定することで溶解性を評価した。溶解性は添加したポプラ粉末の重量に対する抽出物の重量%で示した。 結果と考察 含水率40wt%のTBPHを用いた場合に、非加熱下1時間の撹拌で、添加したポプラ粉末の37wt%を抽出できた。抽出物はセルロース及びヘミセルロースであるキシランの混合物であった。添加する貧溶媒として水を用いた場合にセルロースを選択的に回収でき、含水率70wt%のTBPHを用いた場合にはキシランを選択的に抽出できた。以上から、TBPHを溶媒として用いることで、非加熱で植物バイオマスから有用多糖類を抽出でき、選択的な分離や回収も可能であることが分かった。 次に、植物バイオマスの乾燥工程を省いた溶解プロセスの構築を試みた。ポプラ粉末に200%の水を添加することで含水ポプラ粉末を作製した。得られた含水ポプラを含水率40wt%のTBPHに添加して非加熱で1時間撹拌したところ、添加したポプラ粉末のうち32wt%が多糖類として得られた。この結果から、植物バイオマスの乾燥工程が不要であることが示唆された。(論文投稿中)
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
植物バイオマスのエネルギー変換を行うための最も大きな障壁は、多糖類の抽出にかかるエネルギーコストの大きさである。本研究では、イオン液体を用いることで植物バイオマスの乾燥工程が省略でき、さらに抽出プロセスにおいて加熱が不要であることを証明した。これは、従来系に比べてはるかに省エネルギーでの成分分離が達成されたことを示し、植物バイオマスのエネルギー利用に大きく前進したと言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、植物バイオマスから抽出された多糖類からエネルギーを取り出すため、多糖類の加水分解および電気化学的酸化による電子抽出を行う。イオン液体を用いて植物バイオマスから抽出された多糖類をイオン液体中から単離するためには多大なエネルギーを要するため、多糖類のエネルギー変換はイオン液体中でそのまま行うことが好ましい。加水分解及び電気化学的酸化には、温和な条件下で働く触媒である酵素の利用を考えている。多糖類を溶解するイオン液体中での酵素活性が芳しくない場合は、比較的省エネルギーで働くことが期待される金属ナノ粒子の触媒利用も考えられる。多糖類の抽出、加水分解、電気化学的酸化、の三段階のプロセスを構築した後、これらを組み合わせて植物バイオマスを燃料とするバイオ燃料電池を構築する予定である。
|