2012 Fiscal Year Annual Research Report
ショウジョウバエに対する寄生バチ毒液の殺虫作用はなぜ寄生完了で消失するか?
Project/Area Number |
11J07256
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
降幡 駿介 鹿児島大学, 大学院・連合農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 寄生バチ / Asobara / ショウジョウバエ / 免疫応答 |
Research Abstract |
寄生バチにとって宿主とは,唯一の栄養源であると同時に生息場所でもあるため,十分に成長するまでの間,生かして利用しなければならない.にも関わらず,本研究の対象である内部寄生蜂Asobara japonicaの毒液は,宿主ショウジョウバエ幼虫に対して強い殺虫作用を示す.そして,側輸卵管の液性成分中に,毒液の殺虫作用を解毒する成分が含まれており,これによってハエの死を防いで寄生を成立させている. 今年度の研究により,本種の殺虫成分は宿主の細胞性免疫を早期に抑制することにより本種の寄生成功に貢献していることが示された.また,殺虫成分による個体死の過程でハエ体液中のプロテアーゼ活性が顕著に上昇することが分かり,これが個体死に何らかの形で関係していると考えられる.さらに,殺虫成分が効果を示さないショウジョウバエ種に対しては寄生できないこと,殺虫成分を持たない近縁種A.rassicaはA,japonicaと比較して利用可能な宿主の範囲が著しく狭いことも,殺虫成分が寄生の成功に重要であると言える. また,殺虫成分と特異的に反応する抗体の作製に成功し,この抗体と殺虫成分をあらかじめ反応させることで,殺虫活性が失われることが確認できた.これにより成分の単離・同定に向けて重要な足掛かりを得ることができた. 本研究で用いている寄生バチA.Japonicaは,毒液綾虫成分の効果を側輸卵管の成分で解毒して寄生を成立させるという,これまで他種では知られていない特殊な寄生戦略をとっている.本種と近縁種の比較は,寄生バチの宿主範囲の決定要因,またその際に寄生戦略の違いがどう影響しているかを知るうえで有用なモデルになりうると考えられる.寄生蜂は生物農薬としても期待される有用な生物資源でもある.本種のような特異な例について研究を進め,他種との比較を行うことは,寄生蜂のより効率的な利用にも資するものであると考える.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究により,本種が「殺虫成分」を持つ理由を明らかにしたこと,抗体作製の成功により殺虫成分の同定への重要な足掛かりを得たこと,ハエ体液中のプロテアーゼ活性上昇が個体死に関連していることが明らかになるなど,本研究め核心に迫るいくつかの重要な成果が得られた.これは当初の計画以上の進展と言える.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は以下の実験を行う予定である ・抗体を用いて殺虫成分を単離し,LC-MS/MSによる解析を行う ・殺虫成分によるハエの個体死のメカニズムについて,RNAマイクロアレイ等を用いて解析を行う ・HPLC等を用いて解毒成分の単離・同定を行う ・解毒成分による解毒のメカニズムの解析を行う(主にハエ体液中のプロテアーゼ活性化の抑制に関連して)
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