2012 Fiscal Year Annual Research Report
バイオミネラリゼーションにおける生体高分子が関与した炭酸カルシウムの結晶成長機構
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11J07837
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
奥村 大河 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | カルサイト / 炭酸カルシウム / 生体高分子 / バイオミネラル / アコヤガイ / タイラギ / 稜柱層 / 透過型電子顕微鏡 |
Research Abstract |
生物がつくる骨や歯、貝殻のような固体無機物質はバイオミネラル(生体鉱物)と呼ばれる。バイオミネラルでは、それを構成する結晶の結晶相や方位、形態、機械的性質などが高度に制御されていることが多い。それには結晶内部に含有されている生体高分子が重要な役割を果たしていると考えられているが、結晶と生体高分子の相互作用のメカニズムは未解明である。そこで本研究では、炭酸カルシウムで構成されたバイオミネラルにおける有機・無機相互作用を解明することを目指した。 一つ目の実験として、二枚貝の貝殻を研究対象とし、その結晶内部に存在する生体高分子が微細構造や特性に及ぼす影響を調べた。透過型電子顕微鏡(TEM)によって結晶内の生体高分子を可視化し、生体高分子の分布に着目すると、分布が不均一だと結晶に小角粒界や歪みが導入され、sub-grain構造が形成されることがわかった。さらに、この微細構造は結晶に劈開やクラックが発達することを抑制し、機械的な弱さを克服していた。 二つ目の実験として、貝殻から抽出した有機物を添加しin vitroで炭酸カルシウム結晶を形成する実験を行った。抽出した有機物に結晶欠陥を導入する性質があり、天然の貝殻の微細構造がある程度再現されることがわかってきている。また抽出した有機物を分子生物学的手法で調べる実験も行い、先行研究では酸性アミノ酸が多いほど炭酸カルシウムと相互作用しやすいと考えられていたが、本研究から単純に酸性アミノ酸の量だけでは有機物と結晶の相互作用は説明できないことが示唆された。今後は有機・無機相互作用をより詳細に調べ、バイオミネラリゼーションのメカニズム解明につなげていく。バイオミネラルにおける有機・無機相互作用を解明すれば、新規の有機・無機複合ナノ材料の創製や、炭酸塩バイオミネラルの二酸化炭素固定による環境科学への応用が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
バイオミネラリゼーションにおける有機・無機相互作用を理解するために、in vitro炭酸カルシウム結晶形成実験を中心に実験を進め、結晶に影響を与える生体高分子について考察した。その結果、いくつか重要な知見が得られ、現在それを論文にまとめて投稿し、査読中である。学会発表もいくつか行っており、本研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究によって、研究対象としてきたバイオミネラルの構造や性質については多くの知見が得られた。生体高分子がそのような構造や性質を誘起する要因であると考えられるため、今後は様々な生体高分子を用いてin vitro炭酸カルシウム結晶形成実験を行い、得られた結晶の構造・性質を同様に調べる。それにより、これまで調べてきたバイオミネラルの形成メカニズムを考察する。
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Research Products
(6 results)