Research Abstract |
本研究の目的は, 音の質感が持つ情動的な価値を, 神経活動から考察することである. 本年度の目標は, 音の情動的な質感を表現している神経活動の特徴量を特定することであった. 音の情動的な質感として, 3つの純音を組み合わせた3音和音の調性を対象とした. 実験で用いる和音の低構成音は6kHz, 高構成音は9または10kHzに固定し, 6,75-8kHzの純音を中構成音とした. 先行研究を参考にして, 2つの長三和音(長調), 2つの短三和音(短調)と, 3つの無調性和音に分けた. 高密度微小電極アレイを用いて, ラットの聴皮質から, これらの和音や, 和音を構成する純音を30秒間連続して提示しているときの局所電場電位(local field potential ; LFP)を計測して, LFPの位相同期(phase locking value ; PLV)を調べた. 本研究で用いた長三和音, 短三和音の区別は, 楽典に記載されているものと同一であった. 本研究では, 5つの帯域(θ ; 4-8Hz, α ; 8-14Hz, β ; 14-30Hz, low-γ ; 30-40Hz, high-γ ; 60-80Hz)におけるPLVを求めた. まず, それぞれの和音もしくは純音を提示している時のPLVの値から, 提示前の無音時間中のPLVを減算して, ΔPLVを求めた. さらに, 和音のΔPLVから, 和音の中構成音のΔPLVを減算した値として, DPLVを求め, これを協和音と不協和音で比較した. その結果, α, high-γ帯域で, 長三和音のΔPLVが短三和音よりも大きかった. 報告者はこれまでに, 聴皮質のα, high-γ帯域の位相同期度が, 音の情動価も表現していることを明らかにしており, 今回得られた結果は, 和音の調性といった, 音の情動的な質感が, 聴皮質内の位相同期度に表現されている可能性を示す.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時に提出した本年度の研究実施計画を, 当初の予定通り遂行して, 音の情動的な質感を表現する神経活動の特徴量を解明した. 具体的には, 3つの純音から構成される和音に対する, ラット聴皮質の定常的な神経活動を, 高密度微小電極アレイを用いて計測し, 和音の調性を表現している特徴量を特定した. 申請者は, これらの研究成果を, 国内3件, 国外1件の学会にて発表した. このように, 報告者は, 実験実施計画に従って, 当初の予定通りの研究成果を上げた.
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