2011 Fiscal Year Annual Research Report
造血機構解明に向けた魚類造血幹/前駆細胞の増殖・分化を再現可能な培養系の構築
Project/Area Number |
11J08399
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
片倉 文彦 日本大学, 獣医学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 魚類造血 / 造血因子 / 細胞培養 |
Research Abstract |
魚類造血細胞の分化経路および分化に関わる分子機構解明を目的として、コイのエリスロポエチン(Epo)、トロンボポエチン(Tpo)、幹細胞因子(kitla)の組換えタンパク質を作製し、半固形培地を用いたコイ造血細胞培養系にてその機能を解析した。 Epoを単独で用いた場合、Epo濃度依存的なコロニー形成が認められ、大小2種類のコロニーが存在した。それらはいずれも赤血球系マーカー遺伝子のみを発現していたことから、分化段階の異なる2種類の赤血球前駆細胞に由来するコロニーであると考えられた。一方、kitlaを単独で用いた場合においてはいずれの濃度存在下においてもコロニー形成はほとんど認められなかったが、kitlaとEpoを組み合わて用いた場合においては、Epo単独で用いた場合よりもコロニー形成数が顕著に増加し、大型のコロニーの割合も増加した。さらに2種類の赤血球前駆細胞コロニーのみならず、赤血球系マーカーと栓球系マーカーの両者の遺伝子を発現する赤血球・栓球共通前駆細胞コロニーも存在した。さらに、組換えTpoとkitlaの組み合わせを用いた結果、栓球前駆細胞コロニーおよび赤血球・栓球共通前駆細胞を同定することができた。以上より、EpoおよびTpoは、それぞれ赤血球系および栓球系の造血に深く関与しており、またkitlaは他の造血因子と共に用いることでその効果を相乗的に補うということが分かり、それらは哺乳類の相同分子とほぼ同様の作用をもつことが示された。また、本研究によって、2種類の赤血球前駆細胞、栓球前駆細胞、さらには赤血球と栓球の共通前駆細胞を同定することができた。 本研究成果の意義は、これまで解析が不可能であった魚類の赤血球系と栓球系の前駆細胞を同定および解析可能な培養系を開発するとともに、造血因子の相互作用を魚類で初めて実証した点である。特にkitlaは複数の血球系列、及びより未分化な細胞に対する効果が示され、本分子は今後の魚類造血研究の進展の鍵になる可能性が高い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的を達成するためには、魚類における全ての血球系列の分化を再現可能な培養系の開発が必要である。報告者は前年度までにT細胞、マクロファージおよび好中球系列の前駆細胞の同定を行っており、今回新たに赤血球および栓球系列の前駆細胞の同定に成功し、魚類造血機構の全体像の把握に大きく近づいたため。
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Strategy for Future Research Activity |
魚類の造血幹細胞から成熟血球に至る造血分化経路およびそれらに関わる分子機構の解明のためには、さらに他の造血因子の詳細な機能解析が必要である。また、それらの解析を迅速かつ的確に行うために、造血幹/前駆細胞の濃縮分離法の開発も望まれる。そこで、平成24年度はタンパク質や造血細胞の機能解析に長けており、比較免疫学の分野において世界有数の研究室であるUniversity of AlbertaのMiodrag Belosevic教授の研究室において研究を遂行する。具体的には、魚類の他の造血因子遺伝子の同定ならびに組換えタンパク質を用いた機能解析および造血幹/前駆細胞特異的に発現する細胞表面分子の探索を行い、全血球系列への分化誘導が可能な培養系の構築および細胞系列決定に関わる分子機構の解明を目指す。
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